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ポルトガル 「ロナウド依存症からの脱却を」 / プレーオフ詳報
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byTsutomu Takasu
posted2009/12/01 10:30
本大会出場を決め、雄叫びをあげるぺぺ(下)とブルーノ・アウベス
代表でのロナウドは、いつものロナウドではなかった。
「世界最高の選手を抱えているチームがこんな何もないところまで来なければならないなんて、予選が始まった頃は思ってもいなかった」
歓喜に沸くホテルの外で、ゼニツァからの最後の中継を終えたヌーノ・ルスはつぶやいた。リスボンのテレビ局SICのリポーターとして、今予選の全てを追ってきた。
「ポルトガルにはクリスティアーノ・ロナウドがいる。きっとヤツが何とかしてくれる。いつだって国民はそう思ってきた。
今回のワールドカップ予選が始まった2008年、ロナウドはマンUで誰にも止められないような活躍をしていた。プレミアの活躍をTVで眺めながら、俺たちは思ったんだ。こいつがいればポルトガルはワールドカップ優勝さえできるんじゃないかってね」
ポルトガル国民の頭にあった「ロナウド=代表」という思い。期待が膨らむ中で予選は始まった。しかし、ほどなく人々は気づくことになる。
マデイラ出身のこの青年は代表のユニフォームを着た途端に、国民がTVで見ているいつものロナウドではなくなるということに。
ホームでの代表戦で初めて味わったブーイング。
ロナウドの予選2戦目となったアルバニア戦はホームで10人の相手に対し0-0の引き分けに終わり、続くホームでのスウェーデン戦も無得点ドロー。5試合を終え、1勝1敗3分け。勝ち点はたったの6だった。ロナウドはどの試合でも、何かをしようと気を吐いたが、そんな姿勢は明らかに空回りしていた。
ホームでのアルバニア戦の最中には、ブラガのAXAスタジアムのスタンドの一角からロナウドに対するブーイングさえ聞こえたほどである。
ドリブルからシュートまで、全てを一人でやろうとするロナウドに、一部の観客は痺れを切らしたかのようだった。
ロナウドは後に「ブーイングはまったく気にならない。勝つためには何かをやらないといけないし、そのためには点を取らなければならないから」と、代表で初めて耳にした自らへのブーイングについて語っている。
良きパートナーの不在がロナウドを空回りさせ続ける。
それでは何故ロナウドはポルトガル代表で生きないのか。
その答えの一つは長年のポルトガル代表の悩みとも重なってくる。前線で起点となるFWの不在だ。
「ポルトガルには何十年経ってもストライカーが出てこない。今回もブラジル人のリエジソンを帰化させなきゃならなかったほどだ。彼にしても、この国の問題を解決する選手だとは思えない。ロナウドへの負担はそうして大きくなっていくのさ」
地元紙ABOLAの記者はこう語った。
例えばマンチェスターUにはルーニーがいた。当然のように、そこにボールはすっぽりと収まった。ロナウドはそんなルーニーやベルバトフを生かし、そして自らも生かされながら、面白いように得点を生んでいった。
しかし、ポルトガル代表には、そのような選手はいない。シモンやナニ、デコらはいずれもMF。それぞれ技術も高いが、最前線でタメを作り、エリア付近でロナウドを生かすプレーは望めない。
そんな中で、ロナウドの何とかしてチームを牽引しなければという意識は強まっていったのだろう。予選中には、明らかに状況判断の悪い、強引なプレーもあった。