野球善哉BACK NUMBER
阪神タイガースが、走る走る走る!!
走塁に目覚めた今年の強さは本物だ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/04/14 12:15
昨季は、打率.301、19本塁打、104打点と自己最高の成績を残した鳥谷敬。8年目を迎えた今季も選手会長としてチームを引っ張る
首位に立った阪神にさえ感じた「優勝はない」。
同点の10回裏、1死満塁サヨナラの好機。
打席に立った浅井良はバットを折りながらも、痛烈な打球を放った。ところが、打球は中日の遊撃手・荒木雅博の正面をつくライナー。それだけで終わればよかったのだが、この痛烈な打球に、一塁走者のブラゼルが飛び出していたのである。併殺成立。1点取ればサヨナラの場面で、一塁走者など勝利には関係ない。ブラゼルのボーンヘッドだった。さらに、このプレーをめぐり、一塁で憤死したブラゼルはジャッジに激昂。暴言を吐いて一発退場となったのである。
この時点で野手を使いきっていた阪神は不測の事態に陥った。覚えている人もいるのではないだろうか。投手の西村憲が外野守備に着いた、“あの試合”である。伏線にはブラゼルのまずい走塁があった。
極めて阪神に好意的な“タイガース・メディア”はブラゼルの走塁を咎めはしなかったが、先述の新井の走塁も含めて、昨シーズン中の阪神の走塁には、「優勝するべきチームではない」と深く思わせるものが多かった。ブラゼルの退場劇のあった頃、阪神は首位だったが、「優勝はない」と確信したほどである。
鳥谷を筆頭に「走り」を意識したプレーが続出した開幕戦。
今シーズンを迎えるにあたり、球団はFAで小林宏、藤井彰人を補強した。加えて200安打男のマートンのさらなる充実や、首位打者の期待も見える鳥谷、復帰した岩田稔を含めた先発陣の安定ぶりを目にしても、「優勝候補」という言葉に対しては疑ってかかっていた。阪神の走塁は今季も変わらないだろうと思っていたから、優勝候補と推す評論家たちの予想にも、懐疑的な想いを抱いていたのである。
だが、開幕戦の勝利を見て、そんな想いが一掃された。
阪神の走塁は鳥谷のプレーだけが良かったのではない。開幕戦では随所に「走る」意識の高いプレーが見られたのだ。
例えば、鳥谷を三塁に置いたプレー以前の攻撃でも、好走塁があった。無死一、二塁で3番・新井が中前安打を放つと、平野が二塁から生還。続くブラゼルの深い当たりの中堅飛球では、二塁走者の鳥谷が三塁へ到達しただけでなく、一走の新井も二塁を陥れていた。冒頭の鳥谷の走塁の伏線には1死二、三塁の局面を作った新井の好走塁があったわけである。
8回裏の貴重な追加点を獲得した場面においてもしかり。
2死二塁から途中出場の浅井が中前安打を放つと、そう深い当たりではない打球で、二走・新井は本塁に生還した。さらに、本塁補殺を狙った広島守備陣に対し、打者走者の浅井は二塁を奪っている。
開幕2戦目でも、2回裏、1点を先制した直後の攻撃、1死三塁の遊撃ゴロで、三走の金本は本塁を狙っている。アウトになったとはいえ、何とか、1点をもぎ取ろうという姿勢は、昨年には見られなかった。