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「野茂英雄はサイドスローなんです」メジャーに最も近かった男・佐々木誠が語る“新たな野茂観”と“特異性”「球種を見破っても打てなかった」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byTakahiro Kohara
posted2025/06/27 11:01
野茂と言えば豪快なトルネードからの上手投げ、のはずだが……当時最強打者のひとり、佐々木誠が語った特異な投球フォームの秘密とは?
セットポジションの場合は「グラブの動きしか見ていませんでしたね」。グラブの小指側が伸びて、下に少しだけ落ちるときは「フォーク」が来るのだという。
「最後の最後、野茂がボールに指をぐっと入れるから、小指だけ動くんです。グラブの小指のところですよ、下にね。だから、フォームなんか見ていない」
分かっていても打てない
そうしたちょっとしたクセやグラブの微妙な動きで、球種はある程度、特定できたのだというが「それでも、分かっていても打てないんです。意外と分かったら、打ちづらいものなんですよ。力が入ってしまうんで」。
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その宝刀・フォークの変化ぶりが、これまた変幻自在だったという。
「カウント球のフォークと、決め球のフォークで、落ち方が全く違う。今でいうカウント球はチェンジアップみたいな球で、ナックル系のフォークに近いかな。チェンジアップというか“ナックル・チェンジ”みたいな感じです。それがどっちに行くか分からない。
無回転で来ているのが、こっちも分かるんです。こっちに来たり、あっちに行ったりするから、三振に取られているのは、ワンバウンドを振ったやつと、インコースから抜けてきて外へ落ちていく、左投手のスライダーみたいな感じですよ。だからボールに見えてしまうんです」
来る、と分かっても、打ちあぐんだ。
野茂を攻略した左打者とは?
打者をことごとく悩ませたその宝刀を「捨てました」と割り切った思考で、野茂を攻略した左打者が、元オリックスの主砲・藤井康雄だった。
その極意を聞かせてもらうべく、神戸市内に住む藤井を訪ねることにした。
〈つづく〉

