革命前夜~1994年の近鉄バファローズBACK NUMBER
「野茂英雄はサイドスローなんです」メジャーに最も近かった男・佐々木誠が語る“新たな野茂観”と“特異性”「球種を見破っても打てなかった」
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byTakahiro Kohara
posted2025/06/27 11:01
野茂と言えば豪快なトルネードからの上手投げ、のはずだが……当時最強打者のひとり、佐々木誠が語った特異な投球フォームの秘密とは?
1メートル近くは落ちていた
「僕ら、野茂の高めのフォークを狙って、打ちに行くでしょ? そしたら、落ちるんです。低めに来るわけですよ。1メートル近く、少なくとも80センチ以上は落ちましたね。それがたまに、すーっと真っすぐ来たりするんです。だから、打つ瞬間の一番いいポイントで、それが落ちるのか、真っすぐ来るのか分からないから、打ち損じるんです」
佐々木が西武へ移籍した94年は、野茂の日本ラストイヤーだった。当時、野茂が在籍していた90年からの5年間、近鉄は3、2、2、4、2位。一方、西武は90年から3年連続日本一、5年連続パ・リーグ制覇の黄金期。常に優勝を争っていたライバルだったから、当時の近鉄監督だった仰木彬も鈴木啓示も“西武偏重ローテ”を組み、野茂を西武にぶつけることが多かった。
球種は見破っていたが
実際、野茂は日本5年間での登板139試合のうち、ほぼ30%にあたる42試合で西武と対戦している。それだけに、西武も野茂攻略に血眼だった。投手のクセを見抜く名人ともいえる伊原春樹が三塁コーチャーとして立ち、ほんの小さな動きの差違を見抜こうと、映像を通して、ストレートとフォークを投げるときの動きを徹底的に分析したという。
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全身を大きく捻る独特の「トルネード投法」は、振りかぶった後に両腕が下りて来て、胸のところで、左手にはめたグラブとボールを持った右手が一体となり、一塁方向へその“グラブの塊”が動く。その際に「胸のところで手が伸びたら真っすぐ。真っすぐは反動を使っていきたいからなんでしょうね」と佐々木は推察する。一塁側に腕が振られた際の、その右手の張りに注目すれば「フォークだと、ちょっと曲がる」のだという。

