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グラウンド外の早明戦…「一緒に戦う仲間として」早大ラグビー部の“学生アナリスト”が語るチームへの貢献《ラグビー早明戦100回記念》
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byWASEDA UNIVERSITY RUGBY FOOTBALL CLUB
posted2024/11/22 15:01
プレーしないとはいえ、学生アナリストの大谷翼は雨の日も風の日も、選手たちとともにグラウンドに立つ
重要なのはカメラの位置だけではない。たとえばプレーをアップ気味に撮影しようとすれば、撮り手は選手やボールの動く方向に瞬時に反応しなければならない。それこそ「センス」が問われる。
「そこはSHだった経験が活きていると思います。SHが密集に寄る動きを見て、どっちに放るか、次のブレイクダウンがどこで起きるかを予測して撮影しています」
2年生以下の下級生は基本的に撮影係オンリーだが、3年生からはPCを駆使してのデータ処理、プレゼン資料作成などの仕事も入ってくる。その予習はもう始めているが、自称「アナログ人間」の大谷にPCの操作は想像以上に難しかった。このままではマズいと思った大谷は、リーグワンのとあるチームが募集するアナリストのインターンに応募した。
「去年の4年生アナリストの方が下級生のときそのチームにインターンに行っていて、『興味ある?』と聞いてくださったんです。1年生の終わりに見学に行って、公募に申し込んで採用していただきました。今は週1日、授業も早稲田の練習もない日の午前に行かせていただいています」
参加先は大きな予算を持つリーグワンチーム。最初は「プロはすごい機材が揃っているな」と圧倒された。だが撮影し、分析ソフトを使って様々なデータを出すという作業を始めると、早大でやっているのと基本的には同じだった(大谷は「早稲田の分析システムを作ったのが、そこでインターンを経験した方だからかもしれません」と言う)。インターンの活動で得たいのは多くの経験を積むこと。そして迅速に仕事をこなせるようになって、早稲田の分析体制をブラッシュアップしたいという。
仲間を勝たせるための決意
聞く限り、かなり忙しい学生生活だ。しかし大谷は「すっごい充実してます」と快活に笑う。
「学生スタッフはみんな熱くて本当にがんばってるし、選手も私たちに労いの言葉をかけてくれる。キャプテンの佐藤健次さんは練習のとき『いつもお疲れさま』とか、遅くまで残って作業しているときも『まだやってるの? 頑張ってるね』とか、よく声をかけてくれる。チームが『荒ぶる』を取るために、一緒に戦う仲間として見てくれて嬉しいです」
昨季の早大は大学選手権準々決勝で京産大に大敗してシーズンを終えた。寒風吹きつけるスタジアムのスタンド上段から撮影しながら、何もできない悔しさで涙が出てきた。こんな思いはもう味わいたくない、チームが勝つためだったら何でもやってやろう、と胸に誓った。
早大ラグビー部には今年4月、女子部が発足した。部員はまだ12人の小所帯。エースの岡本美優は同じ2年生で、中学3年のとき全国大会決勝で対戦した仲だ。大谷は岡本からも他の女子部員からも「一緒にやろうよ」と誘われた。だが断った。
「両方やろうとしたら、どちらも中途半端になってしまうと思ったんです。早稲田にはアナリストになると決めて入ったんだから、それをやりきるのが筋。『決めたことだから、ごめん』と言って」
女子部も試合では男子と同じ『赤黒ジャージー』を着る。選手たちは「歴史の重みを感じる」と感激の表情を見せる。大谷もそれを着るチャンスはあったが、仲間を勝たせるための仕事を選んだ。
『荒ぶる』とは、早大ラグビー部が大学日本一になったときにだけ斉唱できる歌。シーズンの最後にそれを歌うため、多くの学生たちと同じく大谷もまた日々の努力を重ねている。