――褒め方にもコツはありますか？

　褒める内容は具体的に。その日、その時、新鮮なうちにみんなの前で、というのを実践しています。卓球スクールの仲間たちの前で「今日、○○さんはこれをやってくれました。ありがとう。とても助かったよ」とか、「昨日、○○さんが大会会場で元気に挨拶をしてくれて気持ち良かったと褒めていただいたよ。みんなもいい所を真似しよう」とか。子どもたちの素敵なニュースは親御さんにもコーチにも共有するようにしています。でもね、こんな話をすると、まるで私が一流の子育てママのように聞こえるかもしれませんが、まったくそんなことはないんですよ。ここまで何とかやってこられたのは教員時代に出会った素晴らしい先生方や親御さん、そして美宇に「卓球がすごいではなく、卓球“も”すごいねと言われる人になれよ」と教えて下さった大阪の“井関のおっちゃん”こと、井関隆視さん（卓球用具総合メーカー・ヤマト卓球の元常務）という、私にとっての子育ての恩師に出会えたおかげなんです。

平野卓球スクールの壁に貼られている目標。真理子さんは「全員球出し名人に。全員あいさつ名人に。代表10人以上」

「ママやパパには分からないんだよ」美宇が反発した時期

――美宇さんのように我が子がトップアスリートの仲間入りをした場合は、親はどんな役割を担えると思いますか？

　技術的なことは本人と監督・コーチを信頼してお任せしています。でも、現役時代はそれほど長くなくて、基本的に引退後の人生が長いじゃないですか。それを考えたら競技の成績も大事だけれど、それ以上にみんなに愛され、みんなのことを愛せる人間になれるかが大事だと思うんです。つまり人間性の部分。美宇にはそういう部分をすごく大事にしてほしい。そのために、気になる言動があればすぐに注意します。アスリートに対しては競技で強くなればなるほど周りの方は言いづらくなりますから、言ってあげられるのは親しかいないと思うんです。たとえどんなアスリートに成長しても、何歳になっても、親にとっては可愛い我が子。人生において大切なことを伝え続けたいと思います。

試合に負け、悔し涙を流す美宇（当時9歳）。真理子さんは人間性の部分を伝え続けてきた　©JIJI PRESS

――美宇さん、反発はしませんか？

　もちろん、ありましたよ。特に東京オリンピックの代表争いをしている頃。とにかく目の前の結果が大事だから、私や夫が人間性の話などしても、「人間力とか言うけど、結局、試合で勝たないと意味ないじゃん。ママやパパは厳しい競争の世界にいないから分からないんだよ」と、なかなか聞く耳を持ちませんでした。それがパリオリンピック代表を目指したこの2年間は全然違いました。周りでサポートしてくれている方々や家族に対して感謝の気持ちがありました。東京オリンピックでシングルスの代表を逃した苦い経験と団体戦銀メダルの楽しさが、パリオリンピック代表を絶対に掴み取りたいという活力に繋がったのです。このパリへの決意が、過去の自分の心の弱さと向き合う勇気をくれ、美宇は大きく成長しました。オリンピック代表を掴んだことも嬉しいですけれど、それ以上に人としての成長を感じ、パリオリンピックを目指してくれて本当に良かったと思っています。

【次ページ】　娘たちは三者三様だから面白い