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「最大の違いは脳のキャパシティ」もはや最速マシンではないレッドブルで勝利を重ねるフェルスタッペンの“特別な能力”《ここ3戦はPP奪えず》
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尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2024/06/28 11:00

ホーナー代表と言葉をかわすフェルスタッペン。今季10戦を終えて7勝、2位ノリスに69ポイント差をつけて首位に立つ
その余裕があるからこそ、競り合いやプレッシャーがかかる場面でもミスのない安定した走りが可能になる。そしてそれは、最速マシンでないにもかかわらず、22年にフェルスタッペンがフェラーリのシャルル・ルクレールを下して2連覇した理由でもある。
最速のマシンを手にした昨年は、その余裕がフェルスタッペンにより速く走るヒントを見つける時間を与えていた。
たとえばアゼルバイジャンGP決勝レース中のこと。このレースでフェルスタッペンはチームメートのセルジオ・ペレスの後塵を拝し、2位に終わった。敗因にはセーフティーカー導入のタイミングが不利に働いたこともあったが、そもそもフェルスタッペンにはペレスを逆転できるペースがなかった。
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フェルスタッペンが苦しい走りを強いられたのは、ブレーキバランスがフロント寄りだったため、コーナーでアンダーステアが出ていたからだ。チームはアンダーステアを解消するためにブレーキバランスをリア寄りにしたが、リアブレーキはエネルギー回生にも連動しているためエンジンブレーキの影響が大きくなり、ブレーキング時にリアが不安定な状況に陥っていた。
並のドライバーであれば、そのまま走って2位でチェッカーフラッグを受けるところだが、そんな状況でも余裕を持ってレースができるフェルスタッペンは、その状況を克服するためにコクピットの中でエンジニアとともにトライを行った。ホンダのスタッフにエンジンブレーキのセッティング調整を頼み、リアの安定性を上げたのである。
これでペースを取り戻したフェルスタッペンだが、チェッカーフラッグまで残りわずかだったため、逆転するまでには至らなかった。フェルスタッペンはそのレースをこう振り返る。
「勝てなかったレースからでも多くのことを学べると知ったという点で、昨年のアゼルバイジャンGPはよく覚えている。レース中にマシンについて様々なことを試したからね」
速くないマシンでも速く走らせる方法があることを学び、フェルスタッペンはドライバーとしてさらに成長。その後、イタリアGPまで10連勝することとなる。
当代最速ドライバーの特別な能力
その余裕は、レッドブルのマシンが最速でなくなった今シーズン、フェルスタッペンの強みとなり、混戦の中でもチャンピオンシップのリーダーに立っている最大の要因となっている。
スペインGPの逆転優勝を見届けたホーナーは、こう言ってほくそ笑む。
「昨年のように30秒以上差をつけて勝つほうがチーム代表としては楽でいいが、今日のようなレースも悪くない。かつての偉大なドライバーたちと同じように、マックスが持っている特別な能力を見ることができるからね」
今週末はレッドブルの母国オーストリアでレースが行われる。フェルスタッペンはどんな“特別”を見せてくれるだろうか。
