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バレーボールPRESSBACK NUMBER
「石川祐希のブロックはかなり素晴らしい」専門家が絶賛するその理由は? ミドルブロッカー目線でバレーボールを観る“通なススメ”
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2023/09/29 17:55
専門家も称賛する石川祐希のブロック。個性豊かなミドルブロッカーとの連係も、五輪予選の見どころのひとつだ
――では、日本がサーブで崩した時、相手の攻撃がある程度絞られる局面では、何を考えているのでしょう?
山村 逆に質問していいですか。たとえばBパスだった時、相手のデータ上でオポジットが6割、レフトが4割という分析が出ていたとしましょう。この数字を聞いて毎回、ライト(オポジット側)に跳びますか?
――その数字だとレフトの4割も捨てきれない、と迷います。
山村 そうなんです。たった20%の違いだけれど、その試合でレフトが多くなれば50/50になるかもしれない。大した差じゃないんです。だとしたら、その情報を選手に伝えますか?僕らは伝えない。伝えるのは「基本的に真ん中はない。だからレフトとライト、両方とも準備してください」となりますよね。そこまで伝えているのに真ん中にブロッカーが残っていたら、戦術を理解していないということなので「何で?」と言われても仕方がない。
今のバレーボールは膨大な情報があるぶん、監督やアナリストは選手にとって有意義な情報を入れるべきだし、もしやられたとしてもみんなが「今のは仕方がない。これは作戦通りだからいいんだ」と言ってあげたほうが次のプレーに切り替えやすいはずです。
――伝えすぎず、情報を的確に伝える。山村さんが今の日本が強い理由として挙げた「共有した組織づくり」ができる要因の1つですね。
山村 駆け引きって、そうじゃないとできないですよね。もちろん、突き詰めればAパスの時はこういう傾向、Bパスは、Cパスはと細かいデータはありますが、そこまでの情報を頭に入れて戦えている選手は実は少ないと思います。だから選手には、リーディング能力が求められるんです。
――リーディングとは?
山村 見る力、読む力。ミーティングではこう言われていたけれど、実際の試合では違うという変化をとらえ、感じる能力。ボールを見ている時間が多いか、相手のボールを触ろうとしている選手を見る時間が多いかでリーディング能力は大きく変わってきます。今の日本代表でその能力が抜群に長けているのが石川くんと藍くんですね。
特に石川くんのブロックはかなり素晴らしい。セッターがボールを触る前に、セッターが何をしようとしているかを見る。それだけにとどまらず、彼の場合はトスが上がる場所ではなくて、トスが上がってから相手のスパイカーがどこにどうやって決めようとしているのかを見る。だから自分はここに跳ぶ、とポジショニングをして、抜けたら後ろにいるレシーバーに拾わせる。この関係性が個としても組織としても的確にできているから、日本のディフェンス力が向上したのは間違いありません。しかも、今はそこに個性豊かなミドル陣も揃っています。そりゃバレーボールが面白くなりますよね。
◇ ◇ ◇
後編では、石川祐希や西田有志、高橋藍といったアタッカー陣を支える個性豊かな「ミドルブロッカー」の選手たちを詳しく解説している。