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「ウクライナのためなら死んでもいいと詠った詩だ」サッカー界の“英雄”シェフチェンコが筆者の前で暗誦した“祖国の詩”
text by
高山文彦Fumihiko Takayama
photograph byGetty Images
posted2022/03/11 17:03
2006年のワールドカップにウクライナ代表として出場した際のシェフチェンコ。現在は祖国への支援を呼びかけるなどの活動を行っている
クラブハウスで希望に満ちて語った言葉
アンドレイはロシアの侵略行為にたいして「戦争を止めよう」と訴えているが、かつてクラブハウスで希望に満ちて語った自分の言葉が、いまの自分にはね返ってきているのではないだろうか。彼はこう言っていた。
「この革命はウクライナの人たちにとって、意味あるものだった。最悪の事態――暴力の応酬だって考えられた。僕は両派の政治家をふくめて、みんなが平和で、暴力をふるうことなく、この革命を終了させたことを誇りに思っている。世界にとっても重要な出来事だったと思うよ。暴力なしで解決することができるんだ、ということを世界の人びとが知ったんだからね」
いまこそウクライナの人びとは、タラスの詩を自分の覚悟として胸に秘めているだろう。いつまでも屈服さえしなければ、侵略者は汚名にまみれて、あしたにでも死ぬかもしれないではないか。戦艦ポチョムキンの反乱だってあるのだぞ。いまや裏切りと暗殺と失脚と処刑の恐怖のみが、プーチンを暗黒に向かって走らせているのだ。
タラスは詠っているではないか。
笑うがよい 邪(よこしま)な敵よ。
それも長くは続くまい
すべては滅び去るものだから……。
だが栄光は滅びはしない
滅びはせずに 語って聞かせるだろう
この世で何がなされたか
真実が誰のものであり 邪悪が誰のものであるのかを。
またわたしたちは 誰の子どもであるのかを。
わたしたちの歌 ふるさとの歌(ドゥーマ)は
滅びることなく 永遠に生き続けるであろう。
訳/藤井悦子
3月9日はタラス・シェフチェンコの誕生日だった。ロシアの攻撃におびえながらもこの日、キエフの独立広場にもリヴィウのシェフチェンコ銅像前にも多くの市民が集まり、思いおもいにタラスの詩を吟詠した。アンドレイの胸元にもその日、詩集がひらかれていたとしたら、「オスノヴャネンコに」というこの詩であってほしい気がする。決意と覚悟を再確認するために。
あなたの母や妹、そして親戚や友人の無事を衷心から祈ります。
ウクライナに栄光あれ。
《参考文献》
物語 ウクライナの歴史 黒川祐次 中公新書
『コブザール』出版前後のシェフチェンコ 藤井悦子
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。