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球体とリズムBACK NUMBER
2270億円をチェルシーに投じた「石油王アブラモビッチ」が資産凍結されて… 再燃する“プーチン・サークルの一員”疑惑
posted2022/03/11 17:02
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
PA Images/AFLO
チェルシーだけでなく、トップレベルのクラブ・フットボールの成り立ちを一変させたロシア人オーナーに、ついに鉄槌が下された。ロマン・アブラモビッチ──以前からロシア政府との密接な繋がりを指摘されていた人物の資産が英国政府から凍結され、その中にはチェルシーも含まれている。
米『フォーブス』誌によると、124億ドル(約1兆4200億円)の純資産を保有する現在55歳のオリガルヒ(旧ソ連諸国の資本主義化の過程で莫大な財を成した少数の新興財閥)は、2003年夏に1億4000万ポンド(現在のレートで約212億円)でチェルシーを買収すると、これまでにおよそ15億ポンド(約2270億円)を投じてクラブを真の強豪に仕立て上げた。
英語でローマ帝国と同じ綴りの“ロマン帝国”(Roman Empire)と呼ばれた近現代のチェルシーは、そのおよそ19年間でプレミアリーグを5度、チャンピオンズリーグを2度、ヨーロッパリーグを2度、FAカップを5度、リーグカップを3度、そして先月にはクラブW杯を初めて制し、メジャータイトルをすべて獲得した。
それ以前は、リーグで1度、FAカップで3度、リーグカップで2度しか優勝したことがなかったチームだ。フットボールの側面だけを見れば、このオーナーは西ロンドンに途轍もない成功をもたらしたと言える。
超一流の選手や監督を数多く招き、アカデミーや施設を整備し、女子チームにも投資を惜しまなかった。かつてない大富豪のパトロンの出現に、スタンドのファンはルーブルの偽札をばら撒いて喜び、ブルーズが毎シーズンのようにトロフィーを掲げる姿を堪能した。
シャイな微笑を浮かべた控えめなオーナーは当初、更衣室で選手たちと共に過ごすこともあったという。監督には冷徹な判断を下すことも多かったが、選手やスタッフからはその親密さと寛大さで慕われていたようだ。
テリーは2ショットをツイート→批判を受けた
ロシア軍の侵攻が始まった後、アブラモビッチがクラブの売却の意向を示す──もはやそれも不可能になってしまったが──と、元主将のジョン・テリーは「The Best」とハートのマークを3つも添えて、一緒にトロフィーを携えた写真をツイートした(後に批判を受けた)。
またチェルシーのファンジンに寄稿する長年のサポーターは、「仲間の大部分は彼がクラブにしてくれたことのすべてに、ものすごく感謝している」と、英『ザ・ガーディアン』紙に綴っている。
ただその莫大な原資の源と本当の素顔は、あまり熱心に語られることがなかった。