スポーツまるごとHOWマッチBACK NUMBER
「うわっ! かっる!」 メディアに“重い重い”と言われ続けたアイスホッケー用具の最新事情…素材は“F1マシン”と同じ?
posted2022/02/06 06:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
AFLO
冬季五輪の人気競技アイスホッケーは、ふたつのイメージで語られることが多い。ひとつは“氷上の格闘技”と呼ばれる激しさ。もうひとつは全身を覆う防具からくる、重さだ。
だが様々なものが目まぐるしく変化する現代、アイスホッケーはもはや重くはないのだという。世界最大手のアイスホッケー用具メーカー、BAUERの日本総代理店、大昭物産株式会社の清水宏明さんが力説する。
「かつてはフル装備して約10kg。メディアに取り上げられるたびに、重い重いと言われたものですが、いまは7kgもないんです」
素材の進化で、すべての用具が軽くなったアイスホッケー。中でも劇的に進化したのがスティックだ。多くのプロが愛用する「ベイパーハイパーライト」(税抜き3万3000円)を手にして、筆者と担当編集者は思わずハモった。
「うわっ! かっる!」
当連載では軽さがいつも話題になるが、イメージとのギャップは今回がいちばんだろう。
F1マシンと同じ素材を使用
日本有数のアイスホッケーどころ、苫小牧出身で社会人までプレーした清水さんがいう。
「ぼくが子どもの頃、スティックといえば木製でした。それがアルミ製を経て、カーボン製が出てきました。木からカーボンへ。過渡期にいた選手は、野球なら木製バットが金属に変わったくらいの衝撃があったと思います」
カーボンスティックの登場で、多くの面でいいことがあった。まず剛性が増したことで、折れにくくなった。そして、なによりも軽くなった。木製は600gほどあったが、ハイパーライトは385g。試合中の疲労感がかなり違う。また木製ではシュートの際、遠心力を得るため大きく振りかぶっていたが、カーボン製は軽く、操作性が上がったため、スナップを利かせた小さな振りでシュートが打てるようになった。そのほうが、キーパーを欺きやすいことはいうまでもない。
スティックが変わって、アイスホッケーはよりスピーディでテクニカルになった。ただ、その代償として乱闘は減り、どのチームにもいた“乱闘屋”は商売上がったり。これについては残念に思うファンもいるかもしれない。
ハイパーライトのようなプロ仕様のスティックには、F1マシンに採用される最新のカーボンが使われている。だが清水さんによると、次のモデルにはより軽さと剛性を増した、軍事用カーボンが採用されるらしい。とどまることを知らない、スポーツ用具の素材革命。アイスホッケーはもはや軽いのである。