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《花巻東・佐々木洋監督に聞く》大谷翔平のMVPが“偶然ではない”理由「野球だけが凄かったわけじゃない」「教えたのは投資と消費」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byKYODO
posted2021/11/21 17:04
岩手・花巻東高から巣立った大谷翔平。恩師である佐々木洋監督に「MVPの快挙」について話を聞いた
「(大谷の)野球に取り組む姿勢ですね。私は投資と消費ということを教えましたが、大谷は時間もお金もすべてを野球に投資していたと思います。当時、日本でも免許を取らなかったし、特に大きい買い物をするわけでもなかった。(当時も)今もすごくこだわっていますが、食事のこと、体重のこと、トレーニングのこと、そういうことに取り組む姿は、私自身も勉強させられました。教えてもらうことの方が多かった気がします」
「勉強も全教科で評定が85点」野球だけじゃない
大谷が現在の花巻東のチーム、選手に与える刺激は野球だけにとどまらない。
「指導者として一番幸せだと思っているのですが、大谷に限らず、菊池雄星もそうですが、野球選手としてだけじゃなく、様々な面で素晴らしかった。今、現場にいて(彼らのおかげで今の生徒を)指導しやすいんです。
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例えば大谷は勉強も全教科で評定が85点ぐらいでした。大谷は野球だけがすごかったんじゃないよ。勉強もすごかったよ。寮の掃除も、書き物も、提出物もきちんとしていた(と生徒に言えますから)。今思えば、よく私のところに来てくれたと思います。感謝しかないです」
佐々木は指導者である前に、教育者である。野球だけではなく勉強も生活も、人としてもしっかりしてほしい。野球選手である前に、社会の一員としてきちんと振る舞ってほしい。その土台作りを重要視し、生徒たちに真摯に向き合っている。大谷も高校時代にそういった教育を享受している。
グラウンドでさりげなくゴミを拾う姿に感激するアメリカ人も多いが、大谷にとっては高校時代から習慣になっていることだ。ほかにも全力プレー、笑顔で挨拶をすることをはじめ、審判に敬意を持って振る舞うことや、道具を大事にすること、応援してくれる人、サポートしてくれる人、スタッフへの感謝もそうだ。大谷はメジャーリーグで、ファンはもちろん、選手、関係者、メディアからも愛されている。
「指導したなんて恐ろしくて言えないぐらい、勉強の面でも人間的にも立派な生徒でした」と佐々木は話すが、同校の選手の挨拶、振る舞いなどを見ると、やはり高校3年間の影響は大きかったのではないかと思ってしまう。
花巻東高校を巣立った大谷が、佐々木やコーチングスタッフの想像の範囲を超え、野球界最高のMVPを受賞した。佐々木は、こう声をかける。
「おめでとう、とかじゃなくて、ありがとう、と。それだけですね」
大谷翔平は「子どもたちの作文」を変えた
今、大きく羽ばたいた大谷に望むことがある。
「素晴らしい素材を持った選手が、岩手に限らず、東北に非常に多いと思います。大谷に世界で活躍してもらって、岩手の子どもたちにも夢を与えて、引っ張ってくれるようにと。また模範となる生き方をして、いい影響を教育界にも与えてくれたらなと思います」
大谷や菊池の存在は、すでに岩手の子どもたちに大きな影響を与えている。