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《花巻東・佐々木洋監督に聞く》大谷翔平のMVPが“偶然ではない”理由「野球だけが凄かったわけじゃない」「教えたのは投資と消費」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byKYODO
posted2021/11/21 17:04
岩手・花巻東高から巣立った大谷翔平。恩師である佐々木洋監督に「MVPの快挙」について話を聞いた
メジャーに行く自信も、160キロ出す自信もある。その次は何か。自分には何が可能なのか。
「世界最高のプレーヤー、この道の開拓者」という高校生離れした言葉を、佐々木は「目標というよりは決意表明だったんじゃないかと思います」と述懐する。
不可能を可能にし、非現実的なこともすべて現実にしてやろう。大谷の頭にはそんな考えが浮かんでいたのだろうか。
佐々木は大谷を「いろんな非常識を変えていってるのがすごいなと思います」と驚嘆する。
天才はどう生まれた?「残念ながら育てるとか何もなくて」
大谷の日本人として2人目のメジャーリーグでのMVP受賞が決まった19日、明治神宮大会を控えた忙しい状況下、佐々木監督は大谷との3年間を振り返ってくれた。
「野球の技術、人としての人格、非常識な発想を常識に変えた影響力。数字や率ではなく、全体をみて評価して頂いたんじゃないかな。そういうMVPだったんじゃないかなと、非常にうれしく思います」
愛弟子の快挙に対し、柔らかな表情でこう話す。
それにしても、2人もメジャーリーガーを出し、大谷は二刀流で大活躍。花巻東に何か育成の秘密があるのでは……? そう考える人も多い。
「残念ながら育てるとか何もなくて。考え方に関してだけはしっかり話をしましたが、環境さえ与えれば自分でアップデートしていく選手です。目標を与えて、邪魔せず見守って、経験さえ積ませれば、(自ら)上がっていくので。そういう姿勢はプロに行ってからも、アメリカに行ってからも変わらない感じがします。もともとご両親から授かった考え方、生き方を持っていたんじゃないかと思います。
今は自分で器を変えていって、日本から米国とステージを変えながら、すごいレベルに来ています。私が育てるとかはなかったです」
器を変えるという表現は、盆栽を好む佐々木らしい言葉だ。佐々木は盆栽と教育をよく重ね合わせる。
「私は投資と消費ということを教えましたが…」
盆栽は樹木が元来持っている生命力を育てつつ、必要に応じて剪定し、結わえ、時に日に当て、水を与える。時に器を変え、時に自然に戻し、自由に解き放つ。
大谷はもちろん、これまで指導した選手にも、佐々木は目標を与えた後は、その選手の持つ力を信じ、見守ってきた。結果、大谷は花巻東からプロ野球へ、そして海を渡り、メジャーリーグという広大な土地で自らの力を発揮している。
何もしていない、教えたなんて言えないと控えめだが、小さな器に押し込めず、大きな場所で根を張るための土台作りの一端を担ったのは花巻東だろう。
それでも、佐々木は教え子から学んだことの方が多いと話す。