「我々の頃は子どもたちの夢は『プロ野球選手』でしたけど、多分、子どもたちの作文を変えたんじゃないかなと思います。『メジャーの選手』と書いてる子がいると思います。イチロー選手も（MVPを）取っていたから、（大谷には）道しるべがあったのかも知れませんけど。将来、『MVPを取る』と作文に書いてくれる子が増えると、その可能性も増えていくと思う。本当に素晴らしいことをしてくれたと思います」

　佐々木は頬をゆるめながらそう話す。

　余談になるが、大谷が幼い頃所属していた水沢リトルでプレーする小学2年のRくんは「水沢リトルから（大谷の父が指導をする）金ケ崎リトルシニア、そして花巻東に入って、日本ハム、最終的にエンジェルスに入る」のが当面の目標だと教えてくれた。

　この朗報もTVなどで見ているはず。その目標に「MVP獲得」が書き加えられる日もそう遠くはないかもしれない。

©Nanae Suzuki

大谷が証明してくれた「限界はない」

　大活躍をし、里帰りをした大谷には、数日前に再会し、言葉を交わした。

「（MVP受賞は）本人がそんなに意識しているようにも感じなかったので、まだ旅の途中じゃないかと感じました。（大谷は）次、どうするかしか考えていなかった。誰かを超えるじゃなくて、常に前の日の自分を超えることを考えて過ごしていますね」

　自分をどうやって超えていくか、という目標に対し、静かに闘志を燃やす愛弟子を頼もしく感じ、佐々木自身も大いに刺激を受けたと話す。

「岩手から日本一」

　花巻東高校の野球部グラウンドにこんな横断幕がかかっている。岩手の子どもたちと日本一を目指す。監督に就任した際に、掲げた目標だ。

　あれから20年――。目標を実現するための研鑽は今も続いている。

「（大谷が）世界で一番になりました。私も監督になって、日本一になりたいという気持ちで指導にあたっているので、なんとか岩手中心の選手で大谷から刺激をもらいながら目指したいなと思います。無理じゃないか、できないんじゃないか、そういう自己限定をする気持ち（を持ってはいけないこと）を彼から教えられた。子どもたちや私自身にもいい影響を及ぼしてくれました。日本一になれるように、負けないように頑張りたいと思います」

　佐々木が贈った言葉で大谷は新たな道を切り拓き、世界最高のタイトルを獲得した。今度は佐々木、そして花巻東の選手たちが「岩手から日本一」を実現する番だ。

花巻東高の野球部室に貼られていた1枚（2010年）　©Asami Enomoto

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