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年俸総額はインテルの3分の1以下…強豪へと成長した“青春のチーム”アタランタが抱える見えない爆弾とは?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/11/14 11:01
3季連続でCL出場を果たすなどセリエAで存在感を放つアタランタ。その躍進の陰には様々な火種もくすぶっている
昨季スクデットを獲ったインテルのチーム年俸総額は1億4900万ユーロ(税抜)だった。アタランタの総額4000万ユーロは、3分の1にも満たない。
今季チーム最高給取りは1年目のDFデミラルで200万ユーロ。それぞれ180万ユーロをいただくFWムリエルとFWサパタ、FWイリチッチの攻撃3本柱より新入りデミラルの方が多いのは、彼が国内最大手の同業者ユベントスからのレンタル出向組だからだ。
1年かぎりの徒花ではなくなった
インテルなら第2GKのラドゥでも100万ユーロをもらえるのに、44試合に出て12ゴールと働きまくったアタランタDFゴセンスの年俸は80万ユーロにすぎない。「うちなら2倍、3倍出す!」と勧誘する欧州の競合クラブはいくらでもあるだろう。
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事実、FWサパタは「この夏の移籍市場でインテルからオファーがあった」と今月初旬の会見で明らかにしている。
地方クラブが強豪クラブへの反骨心やジャイアントキリングへの意欲でまとまり、才能ある選手の集結という偶然が重なって大戦果を挙げたことはある。
奇跡のスクデットを獲得した85年のベローナや91年のサンプドリアがそうだ。彼らは金銭以上にスクデットという宝物を求め、青春を燃やし尽くし、夢のような思い出だけを残して消えた。
アタランタも、ガスペリーニが就任した16年の夏から上だけを目指して突っ走ってきた。異端の攻撃志向と戦術の勝利、育成システムと市場戦略での成功、自前スタジアムの買収。彼らは1年かぎりの徒花ではなくなった。
低年俸が常態化すればモチベーションの低下にも
自他ともに認める強豪となったアタランタの選手たちが、待遇面の改善を要求するのはプロの世界では自然なことだ。コロナ禍にも関わらず過去5年間で2億5000万ユーロもの利益をあげたクラブが、年俸は安いままでビッグクラブ並の高成績を残せ、と選手たちに求めるのは酷だろう。
経営判断として、スタジアムの改修やトレーニングセンターの拡充が優先されるのは、選手たちもある程度納得しているはずだが、低年俸が常態化してしまうと、矛盾を感じる選手たちのモチベーション低下につながりかねない。
それが、アタランタの抱える見えない爆弾だ。
やはり育成王国として双璧を成すウディネーゼは割り切っていて、選手たちに忠誠心など求めない。“うちでは待遇の改善などしない。高年俸が欲しければビッグクラブから獲得してもらえるよう、移籍金を残せるよう活躍しろ”と選手にけしかけているフシすらある。だから、現役晩年になってウディネーゼに喜んで出戻りたがる選手はいない。