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「人生には自分が最優先ではないフェーズもある」流産を経験した元日本代表選手に聞く“女性ラガーマンの生き方”
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byHIROSAKI SAKURA OVALS
posted2021/10/21 11:04
リオ五輪の女子7人制ラグビーを戦った中嶋亜弥さんに聞く“女性アスリートのキャリア設計問題”
国立スポーツ科学センター(JISS)の妊娠期・産後期サポートにより、トレーニングメニューから栄養学、メンタルケアまで幅広い支援を受けたのが背景にある。ベンチプレスのときには仰向けになるのを避け、脈拍数が130以上に上がらないよう気をつけるなど多少の制限はあったものの、「今までやってきたトレーニングはほぼそのままできると知って安心できた」と振り返る。
身体面の不安より壁となったのは、アスリートとして理想的な生活リズムを保てないことだった。育児に追われ、「自分が何食食べたのか思い出せない日もあった」と言う。
「出産で身体が変わるとか、ダメージから回復できないとか産む前は身体面の不安が大きかったのですが、実際は食事とか睡眠とか、アスリートとして計画立ててやるべき習慣が思い通りにならないことの方が重大でした。競技と育児を両立させるのってなんて難しいんだろうと感じましたね……」
男性アスリートの育休「人間としてすごく自然なこと」
それでも、中嶋が順調に試合復帰できたのは夫の存在も大きい。今も中嶋が遠征や合宿で長期間、自宅を離れる際は真也氏が咲舞ちゃんを見守っている。
「出産すれば間違いなく生活も、自分にとっての大切なものの順位も変わります。どんな公的なサポートがあってもその穴を埋めてアスリートとして頑張っていくには、パートナーの支えしかないんですよね。海外では男性アスリートでも妻の出産や育児のために試合を欠場する選手も多いですが、それって人間としてすごく自然なことだと思います」
出産や育児を経ても女性がトップアスリートで居続けられる環境や空気感は確かに必要だ。一方で、中嶋はライフイベントを機に第一線を退く女性アスリートの決断も否定しない。むしろ、トップレベルを離れた競技者が細く長く、趣味レベルでもラグビーをプレーできる環境こそが求められているとも感じている。
女子ラグビー界の「競技化」が進行
「リオ五輪で正式種目に選ばれて急激に強化が進み、女子ラグビーの二極化が進んでしまったように思います。昔はただラグビーを楽しみたい人たちを受け入れてきた『草ラグビー』のような大会のレベルがどんどん上がってしまい、トップ以外の競技者が取りこぼされているのが現状です」
かつての女子ラグビーの大会は競技志向の部と、初心者や愛好者向けの部に分かれて開催されていた。22歳で楕円球に触れた中嶋自身も後者の部でルールやラグビーの楽しさを知り、その後の代表入りにつながったことを思えば、愛好者向けの試合の場が競技の普及に重要なのは間違いない。だが、近年の女子ラグビー界には多くのスポンサー企業も参入し、純粋な「競技化」が進んでいる傾向がある。