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《優勝賞金1500万円の女流タイトル》「初の女性棋士」目前だった西山朋佳と、里見香奈に勝利した渡部愛… 2人が涙した日と「白玲戦」
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byLPSA
posted2021/10/14 11:15
西山朋佳女流三冠(左)と渡部愛女流三段が戦う白玲戦
プロ編入試験での「女性棋士」の道は残っている
西山は奨励会を退会し、2021年4月に女流棋士三段と認定された。なお、プロ公式戦で所定の成績(10勝以上で勝率が6割5分以上)を収めると、「プロ編入試験」を受験できる。近年にはアマ時代の今泉健司五段、折田翔吾四段がその試験に合格して四段に昇段した。
西山は「あと1勝となったら、考えるかもしれません」と語っていて、初の女性棋士への道はまだ残っている。
2007年に17人の女流棋士が日本将棋連盟から独立し、日本女子プロ将棋協会(LPSA)という新団体を結成して独自の活動を始めた。渡部はその団体に所属している。
渡部は高校を卒業した2012年の春、故郷の北海道から上京して女流棋士を目指した。高校時代に指導を受けた同郷の女流棋士が所属していたことから、LPSAに加入した。
LPSAは2012年7月、独自の基準で渡部を3級の女流棋士と認定した。しかし、将棋連盟と女流棋戦主催者らはそれを認めなかった。当時の将棋連盟とLPSAの関係は、いろいろな問題が生じて悪化していた。
渡部は宙に浮いた立場となり、その頃はかなり辛かったと思う。それでも勉強の場としていた都内のある将棋クラブに通い、強豪アマと指してひたすら腕を磨いた。
将棋連盟は2013年、諸事情を鑑みて渡部を特例で女流棋士3級と認定した。2014年には新体制に変わったLPSAと協議し、相互協力関係を築くことで合意した。
渡部は三枚堂達也に勝った経験も
渡部が女流棋士になるまでの歩みは、このように平坦ではなかった。その後は各棋戦で実績を挙げて活躍している。
2015年にはプロ公式戦の新人王戦に初参加し、若手精鋭の三枚堂達也四段に見事に勝った。
渡部は2018年の女流王位戦で、最強の女流棋士である里見女流王位への挑戦者になった。そして、その里見を3勝1敗で破り、初タイトルの女流王位を獲得した。
写真は、渡部女流王位の就位式の光景。右は、LPSA代表理事の中倉宏美女流二段。
渡部は謝辞で、新人時代の辛苦を思い出したのか、感極まって涙ぐむ場面もあった。
2021年9月に始まった白玲戦七番勝負は、第3局が終わった10月上旬時点で、西山女流三冠が元奨励会員の実力を発揮して3連勝している。渡部女流三段としては、第4局で何とか一矢を報いたいものだ。
【追記】10月16日に行われた白玲戦第4局は、西山女流三冠が勝って4連勝し、初代の白玲位に就いた。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。