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《優勝賞金1500万円の女流タイトル》「初の女性棋士」目前だった西山朋佳と、里見香奈に勝利した渡部愛… 2人が涙した日と「白玲戦」
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byLPSA
posted2021/10/14 11:15
西山朋佳女流三冠(左)と渡部愛女流三段が戦う白玲戦
西山は2010年に14歳で関西の奨励会(棋士養成機関)に6級で入会した。女流棋士ではなくて、初の女性棋士を目指した。関西には女性の奨励会員はほかにいなかった。男子校に女子が入ったようで、西山に負けたときだけ泣く者もいたという。
西山と里見は奨励会で昇進を重ねたが
日本将棋連盟は2011年5月、里見香奈女流三冠(当時19)の「奨励会に入って自分の棋力を磨き、どこまでできるか挑戦したい」という強い希望を受け入れ、奨励会1級の編入試験を特例で実施した。
里見の対戦相手は3人の女性奨励会員で、関東の加藤桃子2級(同16)、伊藤沙恵2級(同17)、関西の西山4級(同15)。西山は香落ち(下手)の手合いで指して負けた。
里見は3局のうち2勝して合格、関西奨励会に1級で入会した。
その後、西山と里見は奨励会で競い合うように昇進を重ねた。
2013年に里見が女性として三段に初めて昇段した。西山も2015年に三段に昇段。
30人以上の三段で争う三段リーグは最後の難関だ。2位以内に入って四段に昇段して棋士になれるのは、半年ごとにわずか2人のみである。
里見は計8期(病気休場の3期を含む)の三段リーグで、いずれも負け越して低迷した。そして、2018年に25歳の年齢制限規定によって、奨励会を退会した。
通常なら「四段昇段」の好成績だったが
西山は8期目の三段リーグ(2019年度後期)の最終日、12勝4敗の成績で臨んだ。2局を連勝すれば、昇段の可能性があった。初の女性棋士誕生を期待してメディアも注目した。
西山は2連勝し、14勝4敗の好成績を挙げた。通常なら四段に昇段できるところだが、勝負の世界の厳しさが待ち受けていた。西山のほかに2人の14勝4敗がいて、西山より順位上位のその2人が規定によって四段に昇段したのだ。
当日の夕方、敗者となった西山への異例の記者会見が行われた。放心状態で応じていると、逆転負けした2局が頭に浮かび、思わず涙が流れたという。
ちなみに、あの藤井聡太三冠は2016年度前期の三段リーグで、13勝5敗・1位の成績で四段に昇段した。四段昇段を逃した西山は、それから2週間は抜け殻のような状態となり、自宅にこもって過ごしたという。
やがて、新たな決意を抱いて三段リーグに臨んだ。次点(3位)の西山は、次点をもう1回取れば、四段に昇段できる規定がある。しかし、2020年度前期は後半に8連敗、同年度後期も後半に6連敗し、優勝争いから脱落した。