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決めればメダル、外せば4位… リオでは“出場権もなかった”アーチェリー男子団体が「最後の1射」を放つまで
posted2021/07/27 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Takuya Matsunaga/JMPA
矢の行き着いた先を見届けた瞬間、武藤弘樹は「やったー」というように握った右手を振り下ろし、古川高晴と河田悠希は両手を突き上げた。やがて3人が集まると、抱き合った。
7月26日、アーチェリー男子団体3位決定戦に臨んだ日本はオランダに5−4で勝利。この種目では初めてのメダルを獲得した。
試合は拮抗した。第1セットをオランダが獲り、第2セットは日本が獲る。続く第3セットは再びオランダが獲ったが、第4セットは日本が奪い返し、4−4の同点になった(1つのセットに対し2ポイントが与えられる)。
勝負は「シュートオフ」に持ち込まれた。
すべてが託された1射を担った武藤
シュートオフとは、団体戦で4セットが終わっても同点の場合に3人が1射ずつ行なうもので、その合計点の高いチームに1ポイントが与えられる。それも同点の場合は、最も中心に近いところにある矢のチームが勝ちになる。
シュートオフに入り、オランダの1番手が10点、日本のトップ、河田は9点。続く選手は、オランダ、古川ともに9点。この時点でオランダ19−日本18となった。
オランダの3人目の選手は9点で28−18。日本が勝つためには最後の1射が10点であり、なおかつ相手の10点の矢より中心に近いところでなければならない。
日本の成績のすべてが託されるラストの1射を担ったのが武藤だった。
どれほどの重圧だったろうか。メダルかどうかが懸かる1射だ。しかも団体戦である。
背後で古川と河田が見守る中、武藤が70m先の的を見据える。しばし静止したあと、放つ。10点の範囲を示す黄色の円を射抜いた。しかも、黄色の円の中心にあるもう1つの円「インナーテン」である。オランダより中心を、射抜いた。その瞬間、日本の銅メダルが確定した。