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京大卒の東京五輪金メダル候補、山西利和が語る“なぜ歩くのか?”「最初から競歩をやりたいと陸上部に入る人はいなくて…」
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byAsami Enomoto
posted2021/07/12 11:00
競歩の男子20kmで金メダルが期待されるのが、“京大卒ランナー”山西利和である
「選手としてひとつの能力を改善するのではなく、競技力全体、つまり土台をあげていくということです。これを上げるのは長距離選手、特に競歩選手は短距離や跳躍の選手にくらべて、比較的容易だと思っています。
競歩は歩型などのルールと失格があるので、技術の部分に気をとらわれがち。もちろんフォームなどの技術も大事なんですが、あまり技術にとらわれていると地力の向上のための練習が疎かになってしまう。僕は『技術を地力=体力でぶちぬいていける』可能性があると思っているんです」
では「地力」とは何か。山西の答えは明解だ。
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「端的に言えば、LT値です。これがもっともわかりやすい指標なので、定期的に計測をしながらやっています」
LT値とは、運動中に血中乳酸濃度が急激に上昇するポイントのこと。運動強度、ランニングの場合は走る「ペース」が、このポイントを越えると体の中で乳酸が分解しきれなくなり、体感としてもキツくなる(例えば、市民ランナーが1km5分だと楽に走れるのに、4分30秒だとキツくなる場合、5分~4分30秒の間のどこかにそのランナーのLT値があることになる)。
またトップ選手のLT値は、心拍数が「最大心拍数の90%前後になる運動強度」とも言われており、心拍数を計測しながら走ることでLT値をトレーニングで活用することも可能だ。
練習は「“王道中の王道”を通っているつもりです」
では、山西は具体的にはどんなメニューをこなしているのか。
「練習メニューも何か特別なものがあるわけではないんです。地道に泥臭く、基本に忠実に歩いていくだけ。いわば“王道中の王道”を通っているつもりです」
話を聞くと、山西の練習は心拍数の帯域で大きく4つくらいにわけられるという。やや雑なまとめだが、以下に類型化してみた。
(1)心拍数が最も高くなるインターバルなどのスピード練習
(2)レースと同様の心拍数&ペースで歩く距離走
(3)レースペースよりやや遅い“LT値”で歩く距離走
(4)さらに遅いペースで25km、30km、時に40kmまで歩くロング走
ちなみに山西は持久系アスリートとしては心拍数が高いほうで、レース中は190前後になることがザラだという(ドーハ世界陸上で200を越えたのが写真で確認できたが「これはおそらく計測ミスです。腕時計タイプは誤差があるので」と笑っていた)。