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日本陸連「体重・身長非公開」でスポーツ観戦はどう変わる? 摂食障害、無月経…“数値”の弊害と役割とは
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byAsami Enomoto
posted2021/02/23 17:03
男子走高跳日本記録保持者の戸邉直人は長身で無駄のない身体つきで知られている
正直、聞きづらい面があった
筆者は陸上競技を20年以上取材してきて、依頼を受けた編集部の指示で、活躍したアスリートの身長・体重を聞いてきた。主な対象者は、全国大会で1番(個人優勝、チーム優勝、駅伝なら区間賞)になった選手たちだ。
なかには戸惑いの表情を浮かべる選手もいるが、たいていは答えてくれる。しかし、一度だけ断固拒否されたことがある。投てき種目で優勝した女子中学選手だった。15年以上も前のことで、そのときは顧問の先生に聞きに行った記憶がある。
長年全国トップクラスで活躍している選手は体重を聞かれることに慣れているとはいえ、女子選手には正直聞きづらい面があった。こちらも興味本位ではなく、アスリートの情報として誌面に掲載するために聞いているわけで、日本陸連の新方針にホッとしている部分もある。
厳しい体重制限が選手の健康を損ねている
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日本陸連は2018年12月に「鉄剤注射原則禁止」を打ち出しているが、これは今回の新方針とつながっている。女性アスリートの三主徴(利用可能エネルギー不足、視床下部性無月経、骨粗しょう症)が課題となるなかで、身長・体重、BMI 指標などの数値が独り歩きしてしまうことがあるからだ。
簡単に説明すると、女子長距離の強豪チームでは厳しい体重制限を課していることが多く、過度なダイエットにより貧血になりやすい。それをカバーするために鉄剤注射を使用する。その結果、タイムが向上する一方で、肝臓・腎臓などの機能が低下して、後遺症に悩まされる選手が少なくなかった。
過度な体重制限が、摂食障害、無月経、骨粗しょう症、燃え尽き症候群などの弊害を生み出している。体重の数値に過敏になることが“悪の根源”のようなものなのだ。日本陸連は身長・体重を非公開とすることで、女子アスリートの過度な体重制限の防止と鉄剤注射の根絶につなげようと考えているわけだ。体重を非公開にすることによる効果は多少あるだろうが、根本的には指導者の“意識”を変えないといけないような気がしている。