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宇都宮ブレックスのHCが「全選手」を出場させる理由 「試合には出ず『練習は頑張れ!』では厳しい」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTOCHIGI BREX INC.
posted2021/02/12 11:00
宇都宮ブレックスの安齋HCは自身の経験をもとに、選手をどう起用するかを考える
バスケというチームスポーツに重要な「犠牲心」
「バスケットボールはチームで戦い、チームで勝たないといけないスポーツ。重要なのは『犠牲心』だと僕は思っているんです。そして、一人ひとりの犠牲をみんなが評価しあう。それができる集団こそが、最も良い組織だと思っています。
『そんなの当たり前じゃん!』と言われるかもしれません。でもスポーツに限らず、どんな仕事でもそうだと思いますけど、そういう組織であり続けるのは難しいですよ」
そんな理想的な存在を目指し続けられる理由はなんだろうか。
初年度からこのクラブにいる安齋だから、感じられることがある。
「派手なプレー以外も、うちのファンのみなさんが評価してくれているからだと思うんですよ。ディフェンスの泥臭いプレー、ルーズボールに飛び込むプレー、リバウンドでの貢献……。そこを評価してくれるので。もしそれがなければ、プレーしている側も目立つプレーや仕事だけに意識が向いてしまうでしょうね。
でも、ブレックスというチームはそうじゃない。ファンの人たちが、スーパースタータイプではない選手たちも応援してくれていることが、この状況につながっているのかなと思います」
鎌田GMも同じように感じている。
「選手たちには、ブレックスに加入するとき『このチームで戦うことで、今以上の人気者になっていってもらいたい』と伝えています。というのも、それぞれの選手たちがブレックスにきて、成長していくストーリーを見ることもファンの皆さんの楽しみの一つかなと考えているので」
24秒間しか出番がない選手の一つのプレーをたたえる
安齋は、チームワークとは以下のようなものだと考えている。
「犠牲心と、全員がそれを評価できること」
24秒間しか出番がない選手の一つのプレーを、みんなのための犠牲心の表れだとチームメイトとファンがたたえる。
『箱推し』の正体は、犠牲心を評価できるカルチャーだった。
だから、安齋はこう言って胸を張るのだ。
「例えば、(竹内)公輔が必死にリバウンドに飛び込んでボールを取ると、あの大きな体ですぐに走りますよね。『そんなところが好き』と公輔のTシャツを着て応援してくれる方もいます。彼のような選手はチームにとってすごく大切な存在ですが、そういうところまでしっかり見てきちんと評価してくれるファンってなかなかいないじゃないですか? でも、そういうファンがうちにはいますから」
チームスポーツの理想を硬派につきつめる。そんなブレックスのカルチャーは、観客動員や売り上げという平時の価値観だけでは良し悪しが測れないこの時期だからこそ、輝くことを見落としてはいけない。
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