ボクシングPRESSBACK NUMBER
エリート田中恒成が打ち合いを選択。
木村翔の右フックにぐらつくも──。
posted2020/07/09 11:05
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
第1回「木村翔×田中恒成、2018年世界戦。エリートを襲った“恐怖心”と怪我。」、第3回「田中恒成『これだけ必死だったのは初の世界戦と木村さんの試合ぐらい』」は記事最終ページ下にある「関連記事」からご覧ください。
2018年9月24日、WBO世界フライ級チャンピオンの木村翔(青木=当時)と3階級制覇を狙うチャレンジャーの田中恒成(畑中)は名古屋市郊外にある武田テバオーシャンアリーナの控え室にいた。
“雑草王者vs.エリート挑戦者”と称された注目の日本人対決を前に、2人のボクサーはそれぞれの思いを胸に試合開始のゴングを待っていた。
チャンピオンの木村は練習してきたことを頭の中で反芻し、試合へのイメージを高めていた。
「当時の木村翔は突っ込むしかないのですから。つぶして、つぶして、それが作戦といえば作戦でした。田中くんは上手にサイドに回るから、それをしつこく追っていく。
サイドに回られてもすぐに足を動かして正対する。その練習はたくさんしていました」
田中を追いかけるイメージを膨らませていた木村。
やるべきことは明快で、その気持ちに迷いはなかった。あとはそれが通用するか、しないかだけだ。リングに上がる直前の心理状態としては悪くない。
チャレンジャーの田中は「少し迷っていた」。
対照的にチャレンジャーの田中は「少し迷っていた」。この期に及んで迷う?
「この試合はメンタルが勝負だと思ってメンタルとスタミナを強化してきた。そういう戦いをするつもりだった。なのに、木村さんは後半に強いから、前半にポイントを取りつつスタミナを温存したい、という思いもあったんです。
でも、試合前の控え室で『それは違うかな』と。1ラウンドから打ちにいこうと決めました」
「スタミナを温存したい」という気持ちで試合に臨み、打撃戦に巻き込まれるのと、「打ち合っても構わない」と思って打撃戦に挑むのとでは、同じ打ち合いでもまったく違った結果を生む。
田中はこれを「ちょっとした心意気の選択」と表現した。