オリンピックへの道BACK NUMBER
羽生結弦が公開した3本の芸術的動画。
ライター松原孝臣はこう読み解いた。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2020/05/09 20:00
「#SkateForward明るい未来へ」で3本の動画を公開した羽生。そこには彼が歩んできた人生が織り込まれていた。
自分を、自ら高みへ引き上げようと努めてきた。
先に記したように、言葉は冒頭の挨拶にとどまり、あとは演じることに徹している。
自分が演じてきたフィギュアスケートを通じて伝えたいという意思とともに、別の思いも湧き上がらせた。
本来、羽生は、言葉の発信力も強いアスリートだ。言葉を用いながら、メッセージを伝えることもできただろう。
それでも言葉を削り、これまでのプログラムそれぞれの断片を演じた。
シンプルな部屋の一角で、ジャージー姿でのそれは、羽生が磨いてきた表現をも確かに感じさせたし、羽生が歩んできた道のりを雄弁に伝えていた。
同時に、言葉がないことで、受け取る人それぞれに感じとる自由を生み出していた。スポーツ、あるいはスポーツを含む文化の良さもまた、そこに感じ取れた。
今だからこそ、そうした力を必要とする人も存在する。誰もが、ではないかもしれなくても、きっといる。
そして、3本の動画を見直して、あらためて思う。
羽生が、いかに真摯に、フィギュアスケーターとして歩んできたかを。他者のふるまいを不必要に、過剰に意識して引きずり降ろそうとするのではなく、自分を、自ら高みへ引き上げようと努めてきたかを。
積み重ねてきた事実のつまった映像は、さまざまなことを考えさせるメッセージとなっていた。