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羽生結弦の「バラード第1番」再演。
ピアニスト福間洸太朗が語る卓越度。 

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

PROFILE

photograph byAsami Enomoto

posted2020/04/04 11:30

羽生結弦の「バラード第1番」再演。ピアニスト福間洸太朗が語る卓越度。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

四大陸選手権のSP演技後、「これまでの『バラード第1番』で一番よかったんじゃないのかなと思います」と羽生も満足げな笑みを浮かべていた

福間の眼に四大陸選手権はどう映った?

 そんな彼の眼には、今回の四大陸選手権の『バラード第1番』はどう映ったのだろうか。

 冒頭の4回転サルコウ、4回転トウループ―3回転トウループのコンビネーションジャンプにはGOE 4点を超える高い評価が付くなど、技術点では唯一の60点台をたたき出し、111.82点の世界最高記録でSP首位に立った。

 技術点もさることながら、芸術性や表現性などを示す演技構成点でも圧倒していた。

「手の使い方はもちろん、(体の)動きも全体的にとても滑らかで、洗練されていると思いました。どの瞬間を切り取っても、全く不安要素はありませんでしたし、まるで1つの芸術作品を見ているかのようでした」

 羽生はこの『バラード第1番』の冒頭で「静」を表現したのち、6拍子のメロディが始まると、ゆっくりと滑りだす。ピアノの美しい旋律に合わせるように、ジャンプやスピンを行い、まるで鍵盤の上を跳ねるかのように華麗なステップを踏んでいく。

 体力が消耗した終盤に曲のテンポが急に上がるが、激しいステップとあいまって、演技の盛り上がりは一気に頂点へ達する。ラストはコンビネーションスピンの後、両手を広げた決めポーズを見せた。

ピアノソロのクラシックは難しい。

 福間の言うように、まったく不安要素は見当たらなかった。むしろ、経験を積み重ねてにじみ出てくる味わいが感じられた。

「経験を重ねることで、表現においてはプログラムに深みやにじみ出てくるものがあります。葛藤しながら、いろいろなことを試しながら、それによって自分が追求するものも見えてくるでしょう。今、さらに説得力も出てきているのではないでしょうか。

『バラード第1番』のようなピアノソロのクラシックは、ビートが一定ではないので、スケーターの方々は、奏者の呼吸や癖を全体的に体に叩き込まなければ自分のものにできないですし、ビートが一定の曲(たとえばポップス系)よりも難しいと思うんです。バラード系で、テンポが一定しない楽曲を高いクオリティで自分の型にはめ、さらに音をしっかりと表現できているのは、羽生選手ならではの素晴らしさです」

【次ページ】 表情・指先からショパンの苦悩が伝わる。

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