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東京五輪のSNS運用を担当する、
アイルランド出身のポールさん。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

posted2019/12/16 07:30

東京五輪のSNS運用を担当する、アイルランド出身のポールさん。<Number Web>

ポール・サンダースさん。

【公式SNS担当】
いまやテレビをしのぐ重要な情報源となっているSNS。東京2020組織委員会でも、各種サービスを通じ世界へ向け大会をアピールするさまざまな発信を行っている。公式の“中の人”はどのような工夫を凝らしているのだろう。

 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会のSNSを見ると、海外出身者が頻繁に動画に出演し、楽しそうに日本のスポーツや文化を紹介している。そのうちの1人がアイルランド出身のポール・サンダースだ。2018年の平昌五輪でも活躍したSNS活用のエキスパートである。

「ヨーロッパの人たちは、同じエリア出身の人間が東京から説明するのを見ると、より親近感を覚えます。それが動画出演の狙い。弟からは髪型がダサいとダメ出しされるのですが、母は喜んでくれている。個人的にも約1分間の出演を楽しんでます」

 ポールはアイルランド西端、人口約2000人のキルラッシュという村の出身だ。だが、その人生は遠く離れた異国と結びついてきた。まず赴いたのが中国だった。

「大学在学中、海外で6カ月間英語を教えるカリキュラムがあり、それで中国へ行きました。卒業後も数年間、鄭州で子供たちに英語を教えた。ただ、学生時代に大学新聞で記者をしていたこともあり、メディアの仕事に興味があった。そこで教師に区切りをつけ、アイルランドに戻ってジャーナリズムの大学院に入ったんです」

 ジャーナリズムの修士号を取って地元のラジオ局、大学新聞、新聞社を渡り歩くうちに、ポールはスキルと経験を海外で生かしたいと考えるようになった。そして見つけたのが平昌五輪の仕事だった。

「仕事探しのためにいくつかのフェイスブックのグループに入っていたんですね。そこで偶然、平昌五輪のSNS担当の募集を見つけた。応募したらすぐに連絡が来て、テレビ面接を受けることに。約1週間後に『すぐに来られますか?』とオファーが届き、2週間でビザを取りました」

 2018年1月、平昌からSNSを発信する仕事が始まった。

「まず投稿する文章を英語で書き、担当者のグループで共有します。ダブルチェックのルールがあり、必ず誰かに確認してもらう。といってもチェックの流れはすごく早くて最短で1分くらい。文章のテンプレートを事前に用意し、大会中はメダル速報に瞬時に対応していました」

 平昌は冬季五輪ということもあって、未知の体験の連続だった。

「アイルランドで冬を知っているつもりでしたが、平昌はとてつもない寒さでした。開会式のリハーサルを見学しているときは死ぬかと思ったくらいです。一方、感動した場面がたくさんあり、最も忘れられないのはボブスレー男子2人乗りの決勝。ドイツとカナダが同タイムで、両方に金メダルが与えられて大興奮でした」

ファンとの会話が始まることも。

 平昌五輪が終わると、ポールは2年後の東京五輪でも働きたいと強く思った。ネットで東京五輪組織委員会の求人を見つけ、今年4月からSNS担当を務めている。

「SNSのグローバルチームは現在6人。韓国出身やアルゼンチン出身などルーツは様々。僕の主な担当はツイッターとフェイスブックで、制作チームが撮影した写真や動画を見ながら、いつどんな投稿をするかのスケジュールを考えます。企画はみんなで会議し、10月はハロウィンの様子を渋谷からレポートしました。#Tokyo2020といったハッシュタグをつけてくれた人に、ライクを押したりコメントしたりするのも役目のひとつ。そこから会話が始まることもあり、毎日とても刺激を感じています」

 ポールはこの仕事を気に入り、東京五輪後も同じ分野に留まりたいと考えている。

「もはや人々はテレビからではなく、SNSから情報を得るようになっている。これまで僕は自分のスキルを生かして、世界中を旅して仕事をしてきた。2022年北京五輪、2024年パリ五輪も面白そうですよね。それらに関われるかはわかりませんが、今後も世界のどこかで今と似た仕事をしていきたいです」

ポール・サンダースPaul Saunders

1993年3月22日、アイルランド生まれ。幼い頃からラグビー、ゲーリックフットボールに親しんだスポーツ好き。リムリック大学で英語と歴史を学び、在学中に大学新聞での執筆を経験。卒業後は中国で英語教師を務めたが、自らの情熱に気づき大学院でジャーナリズムを専攻してメディアの世界へ。放送局や地元紙、ラジオ局で働いたのち、'18年平昌五輪でSNS担当を務めた。'19年4月から東京2020組織委員会で働く。担当するフェイスブックとインスタグラムの公式アカウントは@tokyo2020。

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