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「ドラフト1位なら考えますよ」PL学園・清原和博を外した阪神が指名した“強気な高校生”…巨人キラー遠山奬志がスーパールーキーだった頃
posted2025/04/30 17:01

巨人戦の思い出を振り返った遠山奨志(57歳)。この春から京都廣學館野球部のコーチを務めている
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
KYODO,NumberWeb
午後7時になると、中継が始まる巨人戦に合わせてチャンネルを回す。
遠山奬志が生まれ育った熊本では、お茶の間の当たり前の光景だった。プロ野球中継は巨人戦しかないから、必然的に周りは巨人ファンばかり。
遠山も例に漏れず巨人戦を観て育った。だが遠山はプロ野球よりも、社会人野球に惹かれた。
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「高校生の時に見た社会人野球の、社員が総出で応援するあの都市対抗の雰囲気がものすごく華やかだったんですよ。僕には野球でご飯を食べていくという考えがまったくなくて、楽しく野球をしたかった。社会人ももちろん厳しい世界なんですけど、そういうことはわかっていなくて、都市対抗のあの応援の中で野球をやることにものすごく魅力を感じたんです。だから、おこがましいんですけど、プロには全然興味がなく、行こうなんて考えもなかった。その中で社会人野球の行き先が決まって、楽しく学生生活を送っていました」
KK世代の高校生「阪神1位だったら考えます」
だが、高校通算69勝3敗、ノーヒットノーランを11回も達成した八代第一高(現・秀岳館高)のエースを、プロのスカウトが放っておくはずがない。特に熱心だった巨人をはじめ11球団から誘いを受けたが、社会人野球に進むことを理由にすべて断っていた。
ただ阪神のスカウトだけは、自宅を訪問してきた際に遠山も居合わせ、直接話を聞いた。
「1位は清原で行きます」とそのスカウトは言った。
その年のドラフトの目玉だったPL学園高の清原和博は同い年だ。
「あ、清原か、と。やっぱりな、すごいなと、単純にそれだけでした。僕はどうでもよかったから。本当にプロは頭になかったので」
こっちは行く気もないのに、スカウトはなかなか帰ってくれない。遠山は話を早く終わらせて帰ってもらおうと、こう言った。
「タイガースの1位だったら考えますよ」
無茶をふっかけて断ったつもりだった。
だがドラフト当日、マラソン大会の練習を終えると、校長室に呼ばれた。
「ん? なんで校長室? 何か悪いことしたかな」
その日にドラフト会議が行われることすら知らなかった。