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東京五輪の難題・交通管理に挑む。
国交省の“異才”は何を考えたか。 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2019/10/23 07:00

東京五輪の難題・交通管理に挑む。国交省の“異才”は何を考えたか。<Number Web> photograph by Shinya Kizaki

神田昌幸さん。

【輸送局長】
延べ約1000万人が来場すると予想される東京2020で、気になるのがこの超過密都市の輸送体制だろう。重責を担う輸送局長は、交通量をダイナミカルに調整するマネジメントなど革新的な方法を準備している。

 東京2020大会の仕事の中で、最も困難と言われているのが「交通マネジメント」だ。たとえば朝のラッシュに選手や観客の移動が重なったら、交通網はパンクしかねない。1996年のアトランタ五輪では大渋滞が発生し、選手が試合に間に合わずパニックになった。

 この難題解決のために、大会組織委員会の輸送局長に抜擢されたのが国土交通省の“異才”、神田昌幸だ。

 京都大学で土木工学を専攻し、建設省では橋梁を研究して耐震に関する基準も作った。大学教授になっていてもおかしくなかったが、本省に呼び戻されて都市計画で力を発揮し、景観法の制定に尽力。2011年から富山市の副市長としてコンパクトシティをリードし駅前を生まれ変わらせた。アコースティックギター・登山・アートを愛する多趣味人でもある。

「学生時代、友人から『お前ほど公務員に向かない人間はいない』と言われていたんですが、阪神大震災で人生が変わった。なぜ高速道路が倒れたのか、新しい耐震設計はどうするのか。全力で仕事をし、公の仕事が自分に合っていると確信しました」

首都高の特殊な作りが悩みのたね。

 神田は局長に就任すると、すぐに問題の大きさを痛感する。2000年シドニー五輪以来「オリンピック専用レーン」が公道に導入され、東京五輪も立候補時はそれに倣う計画であった。しかし、首都高は片側2車線しかなく、さらに出入口が右側の場合もあり、シミュレーションをすると専用レーンが逆効果であることがわかった。

 そこで大学の専門家と相談して導き出したのは、「交通需要マネジメント」(TDM)と「交通システムマネジメント」(TSM)を組み合わせる史上初の試みだ。

「TDMは企業や団体などに協力を依頼し、通勤の時間帯や交通手段の変更などで、交通需要を低減・分散すること。TSMは高速道路の料金所や入口の開け閉めなどで交通量をダイナミックコントロールすること。たとえば首都高は渋滞するポイントが決まっているので、そこが混みそうになったら、関連する入口を閉める。加えて都内への流入を調整するために、常磐自動車道や中央自動車道などで料金所ブースの数を変える。7月にテストを行い、一定の成果を得た」

【次ページ】 五輪史上初の大会輸送のIT化。

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