東京五輪仕事人BACK NUMBER
五輪からドーピングをなくす仕事。
継続的な調査こそが抑止力になる。
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph bySatoshi Ashibe
posted2019/10/14 11:30
長谷川悠子さん。
継続的な調査で選手を追いかける。
リオ五輪時にプレゲーム・タスクフォースの対象になった選手は1333名。東京五輪ではさらに増える見込みだという。
「ドーピングは選手個人だけの判断ではなく、医療や薬理の専門家の協力を得ておこなっているケースがほとんど。彼らはこちらの検査体制を熟知していて、すぐにバレるようなことはやってこない。自分の血液を抜いて保存しておき、競技直前に体内に戻すことで酸素運搬能力を高めるといった、従来の検査システムでは違反を検出しづらい手法も近年出てきていることから、検査記録の継続的なチェックは欠かせません。疑わしい選手の記録をチェックしつづけていると、ある時期を境にドーピングの気配が消えた……ということがある。マークに気づいてやめたのかもしれないし、我々の存在は抑止力になっていると思います。JADAや各競技団体が教育・啓発活動をつづけてきたことで、現在ではドーピング検査はスポーツのクリーンな環境を守るために必要なものとして認識されてきたと思います。私がJADAに入所した'07年ごろは検査の現場で選手や関係者から『なんでこんな面倒なことをやるんだ?』みたいな対応をされたこともあった。もちろん今でも選手にとっては嫌なタイミングで検査されることのほうが多いと思いますが、協力的な姿勢をとっていただける。アンチ・ドーピングの意識は確実に高まっていますね」
長谷川さんたちの不断の努力で、スポーツの公平性が担保されているのだ。
長谷川悠子はせがわゆうこ
1983年10月2日、東京都生まれ。早稲田大学ではスポーツ科学を学びながら体育会水泳部にマネージャー、学連担当として所属。卒業後は日本アンチ・ドーピング機構へ入所し、ドーピングの検査立案、結果管理、インテリジェンス業務などに従事。'14年ソチオリンピック・パラリンピックでは検査員として、'16年リオパラリンピックでは組織委員会スタッフとして現地へ赴いた。またリオ、'18年平昌大会では大会の約1年前から活動していたプレゲーム・タスクフォースへも参加している。