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五輪からドーピングをなくす仕事。
継続的な調査こそが抑止力になる。 

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芦部聡

芦部聡Satoshi Ashibe

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posted2019/10/14 11:30

五輪からドーピングをなくす仕事。継続的な調査こそが抑止力になる。<Number Web> photograph by Satoshi Ashibe

長谷川悠子さん。

【ドーピングコントロール】
世界に激震が走ったロシアドーピング問題から4年半。東京2020大会ではいったいどのような取り組みによって、選手たちのクリーンな環境を守ろうとしているのだろうか。重要なプログラムが、大会のはるか前から始まっていた。

 ロシアが国家ぐるみで競技選手のドーピングに関わってきたことが発覚。リオ五輪ではメダル候補の有力選手を含む同国選手100人以上が出場禁止となったことは記憶に新しい。永久追放もありうるのに、その後も違反の事例は後を絶たない。

 五輪は国際オリンピック委員会から委託された独立検査機関であるITAが主体となってドーピング検査をおこなう。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の長谷川悠子さんは、東京五輪の開催前に世界的な規模でおこなわれる検査を立案・調整する日本側の窓口役だ。東京五輪の期間中は海外から招聘される検査員を含めて総勢500人前後の検査員が混成チームを組んで検査にあたるが、アンチ・ドーピングのプログラムはすでに動きはじめている。

「ソウル五輪の陸上男子100mでベン・ジョンソンが競技後の検査で禁止薬物の使用が明らかになり、失格となった事例がありました。失格にはなったけれど、表彰式をやり直すことはできません。カール・ルイスが表彰台の頂点に立つ栄誉を奪われたことに変わりはなく、選手が適切な体制下で評価されていれば得られたはずの結果や栄誉を守り切れないという現実がある。これを踏まえて、ロンドン五輪から、プレゲーム・タスクフォースという取組みが本格化しました。クリーンに戦うアスリートの権利を守るための活動です」

本番の時期から逆算して調査スタート。

 東京五輪に向けてITAや国際競技団体、JADAのようなアンチ・ドーピング機関が連携し、世界規模で検査がおこなわれる。

「五輪で実施される33競技の中から過去の違反事例などを踏まえて“ハイリスク競技”を選出。さらに調査対象として特定したトップ選手を継続的に追いつづけています。選考会を考慮して、ドーピングをするならこの時期に薬物を摂取しはじめて、この時期には使用を止めて検査で陽性反応を示さない状態の身体で最後の選考会に出てくるだろう。だから、この時期に重点的に検査をおこなうべき……といった計画をITAが主体となって立案し、世界的なネットワークが連携して検査を実施します。競技当日の検査に加え、様々な情報からハイリスクな選手を特定し、大会の数カ月前から継続して検査を実施することが重視されているんです。リオ五輪のときには、この方法で大会前に20名の違反者を摘発しています」

【次ページ】 継続的な調査で選手を追いかける。

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