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フランクフルトがEL準決勝進出!
長谷部誠との夢の旅路は終わらない。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2019/04/25 07:00
EL準々決勝でポルトガルの強豪、ベンフィカに競り勝ったフランクフルト。次なる相手はチェルシーだ。
騒ぎすぎて電車も止まる?
昨今のブンデスリーガは、欧州諸国のリーグの中でも屈指の安全性とホスピタリティを誇っています。スタジアムでは女性や子供の姿を多く見かけますし、その性別、年齢層も多岐に渡ります。試合当日はビール瓶を小脇に気勢を上げながらスタジアムへ向かう者たちの姿も目立ちますが、彼らは基本的にお祭りを楽しんでいるだけで、誰かに危害を加えることはほとんどありません。
先日、フランクフルトの試合前に興味深い体験をしました。スタジアムへ向かうトラム(路面電車)の中でサポーターがバンバンと車両の壁を叩いていたら、いきなりピタッと電車が止まってしばし停車。それでもサポーターたちが狂喜乱舞していると、車掌さんの車内アナウンスが怒声と共に響き渡りました。
「あぁもう、お前らふざけんな! よし、ここで終点! お前ら、あとはスタジアムまで歩け! 太陽も出ていて外の方が気持ちいいだろ! さあ、早く出ろ! 出ろ!」
すると車内のサポーターが「すみません……」とばかりに頭を掻いて外に出ていきます。「しまった……、はしゃぎ過ぎちゃったなぁ」と反省した人々が連なりながら歩いていく姿は滑稽ですが、なんだか微笑ましい。道連れになった僕も徒歩での道中を楽しみました。殺伐としているようで、実は温かい。それがブンデスリーガを取り巻く現在の雰囲気だと感じます。
チームの愛称は「アイントラハト」。
さて、ここで少しだけフランクフルトのうんちくを。
正式名称はアイントラハト・フランクフルト。アイントラハトとはドイツ語で「一致、団結、調和」の意味ですが、フランクフルト市にはレギオナルリーガ(4部相当)所属のFSVフランクフルトなども存在するため、地元の方々は総じて「アイントラハト」という愛称で呼んでいます。
ちなみに長谷部誠選手も自身のクラブ、チームのことを語る際には「アイントラハト」と言っています。
クラブエンブレムは市の紋章にもなっている犬鷲で、マスコットは着ぐるみではなく実在の犬鷲「アッティラくん」です。アッティラくんは、試合前のセレモニーで必ずピッチへ現われますが、飛行はせず、トレーナーとおぼしき男性の肩にちょこんと乗っています。
先日のベンフィカ戦でも彼の勇姿はあり、サポーターが広告看板の上で雄叫びを上げるのを「お前ら、ルールは守れよ」とばかりに冷ややかな目で見ているシーンが、ビジョンに映し出されていました。
ホームのコンメルツバンク・アレナは収容人数5万2300人。かつてバルトシュタディオン(森のスタジアム)と呼ばれたように、森の中に鎮座しています。先日、フランクフルト国際空港へ降り立つ直前に機内の窓からコンメルツバンク・アレナを見下ろせたのですが、森の中に溶け込むような姿に、思わず「うぉー」と声を上げてしまいました。
もし、ナイトゲーム後の暗い夜道で迷ったりしたら、樹海の中に置き去りにされた感覚で途方に暮れてしまうかもしれません。ただし、試合後は大勢のファン・サポーターと半ば行進しながら帰路に就くので、実際はそんな心配は無用です。