大相撲PRESSBACK NUMBER

2018年、大相撲の歴史が変わった。
押し出しが寄り切りを初めて上回る。 

text by

西尾克洋

西尾克洋Katsuhiro Nishio

PROFILE

photograph byKyodo News

posted2018/12/30 09:00

2018年、大相撲の歴史が変わった。押し出しが寄り切りを初めて上回る。<Number Web> photograph by Kyodo News

貴景勝の優勝は、大相撲の巨大な歴史の流れの中で起こった現象だったのかもしれない。

突き押しは安定感には欠けるが……。

 四つ相撲の最大の特長は、コンディションに成績が左右されにくいところだ。出足が悪く、態勢が悪くても、残せば巻き返す可能性が残されている。勝ちを拾いながら15日の中でその場所の相撲を作り上げ、気がつくと優勝争いでトップに立っている。大横綱の殆どが四つで自分の形を持っているのは、つまりそういうことなのである。

 突き押しは、コンディションが良ければ誰も手がつけられない。当たりが良ければ立合いで取組が終わってしまう。たとえどんなに強い横綱が相手でも、当たり負けて態勢が崩れれば巻き返すのは難しい。

 だが言い換えると、当たりが悪ければ崩すことができずに劣勢になりがちだ。劣勢の中から立て直して勝機を探るというよりは、攻めを凌いで隙を突き逆転を狙うという相撲になる。ただ、この形では安定して星を拾い続けることが難しいのも事実だ。

 10年前は、年間で寄り切りがおよそ4200勝。押し出しはおよそ3300勝。900勝もの差を徐々に詰め、2018年には遂に逆転した。突き押しを伝える相撲部屋の数が増加傾向である実情、そしてアマチュア相撲が突き押しの傾向が変わらないことを考えると、この傾向は更に進むことだろう。

四つ相撲が大成の条件ではない。

 では、四つ相撲に回帰すべきかと言えばそうではない。四つ相撲は成績を安定させるための1つの手段だ。これまでの横綱や大関がそういう伝統的な形を踏襲し、自分の形を模索することで優勝を積み重ねてきたというだけの話である。

 そして、新たなスタイルのカギを握るのは貴景勝ではないかと私は思う。それは、貴景勝の初優勝が、連勝によってもたらされたものではないからだ。

 初優勝というのは勢いの助けを借りるケースが多いが、貴景勝は中盤戦で御嶽海に敗れた。普通の突き押しタイプの力士であれば勢いが失せ、立合いに迷いが生じて黒星が目立つところだ。

【次ページ】 2019年は、果たして何が起こるのか。

BACK 1 2 3 4 NEXT
#貴景勝
#高安

相撲の前後の記事

ページトップ