球体とリズムBACK NUMBER
日本に恋して、広島から湘南へ。
ミキッチと家族の愉快な10年記。
posted2018/04/11 11:30
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
J.LEAGUE
異国の街に恋をする。
旅や仕事で訪れた場所でそんな経験をすることは、誰にでもあるかもしれない。例えば、小説家の檀一雄はポルトガルのサンタクルスという小さな漁村と「恋に落ち」(現地の観光案内所のパネルより)、半年ほどの滞在予定が1年4カ月に延びたという。
「1年と少しの間にあそこで得た本当の深い友情は、人生で初めてのものだった」と昭和の文豪は述懐している。
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Jリーグにも、そんな話をする選手がいる。昨季までサンフレッチェ広島に長年在籍し、今オフに湘南ベルマーレへ移籍したミキッチだ。
「広島との最初の契約は1年だったけど、すぐに延長したいと思った。僕と家族はあっというまに日本と広島に恋をしてしまったからね」
娘たちの公園デビュー。
とりわけ妻のリュプカさんは、日本のすべてを気に入った。ファッション誌『ELLE』の表紙を飾ったり、ジバンシィの専属モデルを務めたこともある彼女は、世界中の街を知っているはずだ。それでも、広島が特別な場所になったという。
「(日本は)治安がよくて、落ち着いた生活を送れる。それから人々は他者を敬う。妻はそんなところが特に気に入ったようだ。娘たちも小さかったから、すぐに“公園デビュー”して、“ママ友”と“パパ友”もできた。
幼稚園や学校でもみんなが親切にしてくれたよ。子供は3人いるけど、上の2人は日本で育ち地元の学校に通ったから、もうすっかり日本人だ。綺麗な日本語も話すんだよ」
その点では、ミキッチ本人は娘たちに完全に負けていると吐露する。
「9年以上も日本に住んでいるのに、僕はほとんど日本語を話せない。本来なら、君とのこのインタビューも日本語ですべきだと思う。恥ずかしいよ。僕はピッチではタフに仕事をするけど、語学に関しては怠け者だったみたいだ(笑)」