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日本に恋して、広島から湘南へ。
ミキッチと家族の愉快な10年記。 

text by

井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

PROFILE

photograph byJ.LEAGUE

posted2018/04/11 11:30

日本に恋して、広島から湘南へ。ミキッチと家族の愉快な10年記。<Number Web> photograph by J.LEAGUE

広島の歴代最長在籍外国人選手であり、J1連覇にも大きく貢献したミキッチ。移籍はしても、広島への愛は薄れていない。

ミキッチは、広島に恩を返したかった。

 ただそれも、周囲の人たちが助けてくれたからだろう。私生活ではクラブの通訳にほとんど頼らなくてすんだという。

「例えば、娘のスイミングスクールに申し込もうとしたとき、当然ながら、用紙はすべて日本語で書かれていた。そんな時も、妻の友人がすぐにやってきて、記入を手伝ってくれたりしたよ」

 そのぶん、広島にはたくさん恩を返した。ディナモ・ザグレブを離れる時、移籍先を広島に選んだ理由のひとつに、「ディナモのようなその国の盟主ではなく、中堅クラブでリーグを制したかった」ことがあった。

 そして見事に、3度のリーグ優勝に貢献。果敢に勝負を仕掛け、守備にも献身的に走り続けるクロアチア人は、広島の右サイドに不可欠だった。

湘南の選手として、広島と戦う感傷。

 ただ最後に優勝した2015年以降は、コンディション不良もあって徐々に出番が減少。昨季かぎりで、チームメイトやサポーターと心を通わせてきた9年間(外国籍選手の同一クラブ在籍期間としてJ1最長)に終止符が打たれた。

「退団セレモニーでは、こう言ったよ。僕はこれからもずっと、紫の一部だと」

 今週末、湘南は広島をホームに迎える。ミキッチの古巣は城福浩新監督のもとで新たなスタートを切り、ここまで唯一負けなしの5勝1分けと首位を快走している。手強い相手だ。

「当たり前だけど、僕はすごく感傷的になるだろう。あれほど長く過ごしたクラブは第2の故郷だ。サンフレッチェ、広島の街、サポーターを心から愛している。でも僕は今、湘南の選手だ。試合ではこのチームの勝利のために、すべてを捧げるよ」

 クラブ史上最長となる7年目の曹貴裁監督が率いる湘南は、1年で昇格を果たした今季も溌剌としたスタイルでリーグに彩りを与えている。先週末のホームでの鹿島戦では、同点で迎えたロスタイムの最後の瞬間に山根視来が決勝点を奪い、リーグ最多優勝を誇る強豪に土をつけた。

 決勝ゴールが決まって試合が終わる劇的な幕切れは、「選手時代を含めた長いキャリアで初めての経験」と指揮官も唸った。

【次ページ】 「湘南が今季初めて彼らに黒星をつける」

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