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ライバルなのか、友なのか……。
谷繁元信と佐伯貴弘が語る1998。
text by

鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKanekoyama
posted2018/03/31 09:00

「あの頃はみんながライバルで」(谷繁)と言いつつも……久しぶりに会った2人はこの笑み!
「明日、絶対、一面にしてくれよ」
試合終了後、私はベンチ裏へと急いだ。お立ち台のヒーロー、佐伯を取材するため報道陣をかき分けていると、誰かに腕をつかまれた。
谷繁だった。
真剣な表情が眼前にあった。
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「おい。わかってんだろ。明日、絶対、一面にしてくれよ」
一瞬のやり取りだったが、誰のことを言っているのか。なぜ、そんなことを言うのかはわかった。
ただ、あとから振り返ってみると、一喜一憂しない谷繁がシーズン中の1ゲームにそこまで感情をあらわにするのは珍しかったし、そんな頼みごとをされたのは後にも先にも、この時だけだった。
佐伯はそのシーズン限りでチームを去り、以来、一軍のグラウンドに立つことのないまま、引退した。
「いつもは一喜一憂しない人が……」
あれから7年。
今回の対談でも、あの日の話になった。佐伯が振り返る。
「じつは(逆転につながる)4本目のヒットを打った後、いつもは一喜一憂しない人がベンチから飛び出してきていた。それを見て、グッときちゃった」
谷繁は少し笑いながら、こう言った。
「そんなこと、あったか?」