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ライバルなのか、友なのか……。
谷繁元信と佐伯貴弘が語る1998。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKanekoyama
posted2018/03/31 09:00
「あの頃はみんながライバルで」(谷繁)と言いつつも……久しぶりに会った2人はこの笑み!
「ともだち」や「なかま」に見えないが……。
なるほど、この2人は意識し合い、認め合っているらしいことはわかった。ただ、不思議なのは、いわゆる「ともだち」や「なかま」には見えないことだ。
同じグラウンドにいても、特に近寄ることもない。試合中のベンチで励まし合うこともない。それぞれが近寄りがたいオーラを発しながら、無言のうちに互いを意識している。
そのシーズンの5月、開幕から1カ月以上過ぎても佐伯はなかなか結果を出せずにいた。西武との交流戦を控えて、立川に移動した日、どんな気持ちなんだろうと、携帯を鳴らしてみた。電話口の声が切羽つまっていた。
「今、部屋でバット振っているんや。でも……ちょっと出るか」
夜の立川駅前。明るいうちからホテルの部屋にこもってバットを振っていたという佐伯の表情はどこか吹っ切れたように見えた。
横浜時代からゲンが良いという焼肉屋に入った。
翌日は、佐伯の野球人生をかけた日だった。
「連れ出してくれて、ありがとうな。あのままやったら、ほんと、煮詰まってしまいそうだった。いつまでもバット振っていたような気がする……」
じつは、翌日の試合で移籍して初めてスタメン出場させると告げられていたのだ。相手は西武のサブマリン牧田和久。右の軟投派を打たなければ、このチームに居場所はない。
佐伯にとっては野球人生をかけた舞台だった。
そして翌日、佐伯は打った。
球団史上初めて、41歳選手の4安打という記録を打ち立て、最終回に5点差を大逆転したゲームの主役になった。