酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
力士の体重は50年で30kg増えた。
土俵を広くする、という選択肢は?
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2018/01/18 07:00
魁聖(右)は現役幕内の中で身長1位タイ、体重2位の大型力士。確かに吊り出すことはできなさそうだ。
小兵力士を持ち上げる「吊り出し」は激減した。
決まり手の数が31から21に減っている。土俵が単調になったと言えるかもしれない。
驚いたのは、50年前に19番、つまり1日1番以上みられた「吊り出し」が先場所は0になったことだ。
つり出しは、長身の力士が小兵力士を持ち上げて、土俵外に出す技だ。50年前は「起重機」といわれつり出しを得意技にした明武谷をはじめ、陸奥嵐などつり出しの名手がいた。そして110kgそこそこの小兵力士もいた。だから「吊り出し」は頻出した。
しかし今の幕内力士は優に150kgを超える。そんな肥大漢を持ち上げる起重機は存在しないのだ。
そして足技もほぼなくなった。外掛け、内掛け、けたぐり、けかえし、昔は足技を得意とする業師がたくさんいたが、今はほとんどいない。先場所、足を使った相撲は「切り返し」が1番あっただけだ。
さらに、投げ技も減少した。昔は大関、横綱でも上手投げの名手がたくさんいたが、今は投げ技を駆使する力士は少ない。
細かいところでいえば、「寄り倒し」が減ったのも気になる。1968年1月場所は15番あったのが、2017年11月場所はわずか4番だけ。寄り倒しは、寄り立てられ、俵に足をかけてこらえる力士を、土俵際で倒す技だ。土俵際に追い詰められる様を「剣が峰」というが、相撲の見せ場のひとつだ。
しかし、今は土俵際に詰まるとあっさり俵を割る力士が多いのだ。
さらに50年前は一場所で4番も見られた「うっちゃり」も今はほとんどなくなった。
宇良は久々に現れた「手取り力士」だったが。
そして増えたのが引き技だ。勢いよく突進した力士がつっかえ棒を外されたようにぱたんと落ちたり、体をかわされてもんどりうつような相撲が増えた。
もちろん決まり手は「結果」であって、その過程でさまざまな技を繰り出す好勝負もあるにはあるだろう。
しかし総体的な印象としては、今の相撲は大きさ比べ、重さ比べになっている。紙相撲のように、とんとんとんと叩かれてパタンとこけるような単調な相撲が増えている。
これは力士が大型化し、似たような体形の大兵肥満型が増えたこと、その裏返しとして「手取り」と言われる「小よく大を制す」の業師たちがいなくなったことが原因だ。
宇良は久々に現れた「手取り力士」であり、大いに期待したが、昨年7月以来右ひざの負傷で休場がちとなり、今場所も全休、幕下陥落が決まっている。相撲界の空前の肥大化によって、「手取り力士」も絶滅危惧種になっている。
なんとかすべきではないか、と思う。
ひとつ思いつくのは、土俵の大きさだ。