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山本昌「中高生にスライダーは危険」
大谷・マエケンは投げなかった。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byAFLO
posted2017/12/19 11:00
メジャー移籍後、前田健太の評価は上がる一方だ。年齢を重ねるほどに評価を上げるのは、若い時に作った土台があればこそなのだ。
山本昌「スライダーは、真っ直ぐの振りに影響を及ぼす」
こうした視点から「中高校生でスライダー系を投げるのは危険」と警鐘を鳴らしているのが、球界屈指の理論派として知られる山本昌さんだ。
現役生活を32年続けた山本さんは、自分のピッチングを作る中で、投球の動作からフォームを科学的に考えてきた投手だ。「変化球はその人によって合う、合わないがあります。どの変化球が得意か、その投手の投球を3球見れば分かる」という。
高校生がスライダーを投げることについて、山本さんはこう話している。
「高校時代の大谷選手がスライダーを投げたときに横ぶりになったという話は、よくわかります。身体が横ぶりになるというより、腕の振りが横になるということだと思います。スライダーは肘が下がりますし、手首が寝るようになってしまいます。1度手首が寝る癖がついてしまうと、簡単には直らないんです。
しっかりとボールを切れる人、変化させられる人はいいんですけど、変化させようとして腕の振りを緩めていくと、真っすぐの振りにも影響を及ぼすんです」
「完成度」という言葉を安易に使ってはいけない。
いまの野球界は、スライダー全盛時代と言われている。
プロの投手の多くが、カットボールなどを含めたスライダー系を持ち球にしている。そしてそれは、中学生・高校生にも波及している。インコースにストレート、外にスライダーという配球はオーソドックスながら、やはり有効なのだ。
特に高校野球のトーナメント一発勝負の戦いでは、地道に真っすぐの質を高めるよりもスライダーで打ち取りたい気持ちはよくわかる。だが早い年代でのスライダーの多投は、下手すれば選手の身体を脅かすことにもなりかねない。プロを目指すならばなおさらだ。
山本さんも、スライダーを投げ始める時期については慎重な立場だ。
「スライダーに頼りたい気持ちは分かりますが、スライダー系には危険が伴います。特に、中高校生から投げるのはあまりおススメしません。身体ができて、フォームが固まってからにするのがいいと思います」
大谷、前田という2人の投手が高校時代に直面した同じ問題、そして山本さんの言葉からは、スライダーという球種の難しさが見えてくる。
大谷は高校時代とプロ以降でのスライダーへの意識を違いを次のように表現している。
「曲げたいなと思って投げようとしているか。曲がるためにどうすればいいかと思って投げているかの違い」
ともあれ、スライダーを投げる高校生投手に対して、「完成度」というのは安易に使っていいフレーズではない。