マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ピッチャー返しはなぜ有効なのか。
雑談から飛び出した驚きの理論。
posted2017/12/25 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
野球は“オフ”も、それなりに楽しい。
野球関係者が集まる会合で、また散会後のひとときに、アルコールの勢いもちょっと借りた感じのリラックスした笑い話には、捨て置くのはもったいなさ過ぎるほどの“教え”や“ヒント”があちらこちらに見え隠れしていて、とても酔っ払ってはいられない。
その日はある高校野球の指導者が、バッティングを教えるのが難しい……ときり出した。
「流行りみたいに、みんなフルスイングって言い始めたけど、やっぱりどう考えても“ピッチャー返し”の合理性をひっくり返すこと、できないじゃないですか……」
これに居合わせた多くの人が「共感する」と答えたから、「へぇー」っと思った。
一昨年あたりからか、フルスイングというスローガンを掲げたチームが主に高校野球界に次々と現われて、実戦の中で「肉も裂けよ!」とばかりに猛烈なスイングを見せてくれるようになった。
しかし多くの場合、それはフルスイングというよりは「ムチャ振り」に近い性質のものであり、豪快に力一杯振ってやろうと意気込むあまり、スイングを始める前に肩に、両腕に過剰な力が入るために振り出しが遅れ、インパクトで差し込まれるのを取り戻そうとして体重を後ろ足に残したまま、そっくり返ったような苦しい打ち方でバットを振り回す。
少々クドクドと具体的に表現すると、そんな風なスイングを「フルスイング」と称していた。
ピッチャー返しの有効性って、どうやって教える?
「やっぱりインパクトで、いい感じのタイミングでボールにミートできないと、いくら力んで振ってみても、結果は出ないんだよね。インパクトでのいい感じのタイミングと姿勢……それを追っかけていくと、やっぱり行き着くところピッチャー返しの振り方になる。変な言い方だけど、豪快なスイングで痛烈なピッチャー返しが出来た時が、本当の正しいフルスイングが出来たって言えるんじゃないかな」
この論の展開も、やはり大多数の共感を得た。
でもさ……。ひとりのベテラン監督の反問が興味深かった。
「みんな、ピッチャー返しの有効性って、選手にどう教えてんのよ?」
一瞬、語らいが途切れた。