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大迫傑が作った日本の新スタンダード。
マラソン界に刻まれた2時間7分19秒。
posted2017/12/05 17:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kyodo News
それなりの充実感はあったと思う。
それでも大迫傑は淡々としていた。
そういえば早稲田大学時代、話を聴きに行くと、いつも淡々と話してくれたことを思い出した。
2回目のマラソンにして、2時間7分19秒という大幅な自己ベスト更新。関係者は「ついに世界基準のマラソンランナーが出てきてくれた」と興奮を隠しきれなかったが、記者会見の場では、当の大迫がいちばん冷静で、いつもと変わらぬ表情だった。
私がいかにも大迫らしいな、と感じたのは次の言葉である。
「今日は自分の力を100%出せたと思います。優勝争いに絡めなかったのは残念ですが、1、2番目の選手が自分の100%を超えていたということなので、自分の『100%』を上げていきたいと思います」
3位だったことを素直に受け入れ、今後の展開に思いを馳せる。福岡国際マラソンは区切りですらなく、彼にとっては通過点だったのだ。
30~35kmでの自制心が、沈没を回避させた。
レース展開を振り返ってみると、後半のまとめ方はマラソン2回目とは思えない冷静沈着さがあった。
それまで5km15分のラップを刻んでいたペースメーカーが30kmで外れると、優勝したモーエン(ノルウェー)とカロキ(DeNA)のふたりが、35kmまでの5kmを14分37秒、38秒にまでペースを上げた。
ここで大迫は、「わきまえた」走りを見せる。無理にふたりに合わせるのではなく、35kmまでの5kmを14分55秒でまとめ、35kmから40kmを15分18秒、ラストの2.195kmを6分58秒で乗り切った。
会見で大迫は、「後半の落ち幅を少なく出来た」と話したが、30kmから35kmまでの「自制心」が好結果につながった。もしも無理をしていたら、「沈没」の危険性はそこにあった。
マラソンは、判断のスポーツでもある。