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東海大福岡・安田大将に頭が下がる。
120kmのボールで打者を崩す緩急の妙。
posted2017/03/31 17:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
東海大福岡高・安田大将の大奮投には、まったく頭が下がるばかりだった。
「清宮・早稲田実業」を7回まで6安打2失点に抑えながら、8、9回に3点ずつ奪われて追い上げられながら、そこでヨイショ! と踏みとどまり、わずか中1日置いた29日には、大会有数の強打線を誇る大阪桐蔭高の攻撃を4点にとどめるピッチングを展開。
このセンバツに、間違いなく“もう1つの風”を吹かせてみせた。
まず、コントロールがすばらしかった。
強打者ぞろいの両チームを相手に、きびしいコースを突きながら、この2試合17イニングでわずか2四球の事実が、まずすばらしい。
ひと口に“出し入れ”などと言うが、ストライクゾーンのへりを使おうとすれば、ボール球が増えるリスクを負う。
安田投手の場合、確かにボール球を使ってはいたが、投げ損じた“無駄な”ボール球はほとんどなかった。それぞれのボール球に意味があった。
甲子園に出てくるほどの打者なら、投手が計算して投げてくるボール球には気づいており、それはそれで「攻められている……」というプレッシャーになる。
安田投手は、ボール球でも攻めていたのだ。
バッターのタイミングを崩すことに快感を覚える。
さらに、タイミングを支配していた。
速球は終始120キロ台。それでも、速球と変わらない腕の振りからスライダー、シンカーを投じて打者の体勢をのめらせて、力のこもったフルスイングを許さなかった。
安田投手の緩急は、それだけじゃない。
基本的にほぼ間合いを開けず、軽快なテンポでどんどん投げ込んでくる中で、セットポジションでボールを持つ時間に長短をつける、時にはクイックで投げて打者をアッと驚かせ、その動きを止める。
投げたボールでの緩急以前に、投げる前からみずからの緩急の世界に巻き込んでしまう。
「バッターのスイングを崩した時が、いちばん達成感を感じる瞬間ですね。やられた! って顔、するじゃないですか、バッターが」
向き合った相手を翻弄することを楽しめる。そんな“次元”に達した者だけの、してやったり……の笑顔。