マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
東海大福岡・安田大将に頭が下がる。
120kmのボールで打者を崩す緩急の妙。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/03/31 17:00
マウンドでの安田大将はなんとも余裕のある表情をしているように見える。打者との駆け引きには、精神的な容量が必要なのだ。
捕手ではなく、安田は打者を見て投げている。
投手の仕事は、打者のタイミングを外すこと。
このコラムでも、これまで何度か記してきた私の中のセオリーだ。
どんなにスピード豊かな剛速球の持ち主でも、タイミングが合ってしまえば、打者にフルスイングを許す。
早稲田実業、大阪桐蔭、有力2校と向き合った安田投手は、この2戦で24安打を許したが、その中で長打は6本。
清宮幸太郎には申し訳ないが、彼の記録した三塁打、二塁打が打ち損じだとすると、スラッガー居並ぶ2校の強打線相手に4本の長打に抑えた、そういう表現も許されるかもしれない。
ピッチャーだなぁ……、そう思った。
安田投手が向き合っていたのは、捕手・北川穂篤ではない。間違いなく、入れ代わり立ち代わり打席に入ってくるバッターたちと向き合い、バッターたちに向かって投げていた。
捕手に向かって投げているうちは、投手はまだ半人前であろう。
本物の投手とは、打者に向かって投げる。
テンポよく投げる。丁寧に投げる。打者の顔色を見ながら投げる。タイミングを外して投げる。
最近の野球の中でついつい見落とされがちな、わかっているようで意外と忘れがちな“投の本質”。そのことを、あらためて気づかせてくれた快腕が、もったいなくも甲子園を去った。
そして、その快腕のDNAをそっくりそのまま引き継いだようなピッチングを見せてくれた、もう1人の意外な快腕の登場に、私はもっと驚いている。大阪桐蔭の彼については、また回をあらためて……。