木村沙織がいないバレー界は想像すら難しい。

　とはいえ、いつまでもピークのままでいられるわけではない。

　長期離脱するような大きなケガこそないものの、試合中に足をつる回数も増え、ファイナル6ではセット間やタイムアウトの間に鍼を打ちながらプレーを続けるなど、蓄積した疲労に体は何度も悲鳴を上げた。

　そして、東レの菅野幸一郎監督が「自分でコツコツやるタイプで、リーダーシップを発揮するタイプではないが、年齢的にやらなければいけない立場になり、それも難しかったのかもしれない」と思いやったように、精神的な負担も増えた。冗談交じりで「早く自由になりたい」と口にすることも一度や二度ではなかった。

　まだ辞めるにはもったいない。多くの選手や関係者がそう口を揃えるように、「木村沙織のいないバレーボール界」を想像するのは、容易いことではない。それほど当たり前に、幾多ものプレッシャーを背負い続けながら、常にコートの中心には木村沙織がいた。

　だがそれも、今季で終わり。

　重責を果たし、木村は笑顔でコートを去った。

　それからわずか1時間後、同じ場所で、ファイナル3進出を決めた日立リヴァーレと、今季は4位と躍進したJTマーヴェラスがフルセットの熱戦を繰り広げていた。

　ついさっきまで人が埋め尽くしていた記者席に座るのは、わずかに数人。

　木村沙織がこれまで当たり前のように果たしてきた偉業。これからは、その重さを思い知る日々が始まる。