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木村沙織がいない女子バレーの今後。
引退試合で再認識した存在の大きさ。
posted2017/03/07 17:30
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
応援席に、笑顔で手を振る。
シーズン開幕前から、今季がラストシーズンと明言していた木村沙織の、おそらくこれが現役最後の試合。V・プレミアリーグファイナルステージ、女子ファイナル6最終戦。NECレッドロケッツ対東レアローズ。
100人近い報道陣が横浜文化体育館に詰めかけ、試合後の記者会見場では、無数のフラッシュに照らされる木村の姿を、ズラリと並んだテレビカメラが追いかける。普段は数えるほどの報道陣しかいないVリーグの会場では異様な光景だったが、その中心にいる木村はいつもと変わらず、淡々とした口調で言った。
「ファイナル3に行けなかったのはすごく残念ですけど、リーグの前半にチームが連敗しても止まらず前を見て、勝ちを取り返せてここまで来たのはよかったかな、と思います」
その場で引退を明言し、経緯を語るわけでもなく、これまでのバレー人生を振り返るわけでもない。報道陣にとっては肩透かしを食らう形になったが、それはただ単に「気持ちの整理がつかないから」という理由だけではない。
「もう全部、出し尽くしました」
東レで、そして全日本で、長い時間を共に戦ってきた迫田さおりはこう言った。
「沙織さんからは『いつも通り、普段通りにみんなと戦って勝ちたい』っていう気持ちが伝わってきました。まだリーグは続いているし、たぶん本人が一番『これで最後』と、特別なことにしたくなかったんじゃないかな、って思うんです」
ファイナル3への進出が絶たれた第4セット中盤、木村は両脚をつり、コートを去った。
ベンチに座り、トレーナーから治療を受けながらチームメイトに声をかけ続け、こぼれる涙を、汗と一緒にタオルで拭う。
苦しい時ほど、静かに悔しさをかみ殺し、涙を隠して笑顔を見せる。
「もう全部、出し尽くしました」
それは、これまでと変わらぬ、木村沙織の姿だった。