F1ピットストップBACK NUMBER
F1最終戦で勃発したハミルトン造反。
チームの戦略介入、やりすぎの域?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2016/12/25 11:00
ハミルトン(44番)が見せた選手権制覇への執念。そこには戦略を超えた人間としてのパッションがある。
「なぜペースを落とすんだ? ペースを上げろ」
この状況下では、ロズベルグが3番手以下のマシンにアンダーカットを許し、逆転されてしまう可能性があった。そこでチームは無線を通して、ハミルトンにペースアップを求めた。 「なぜそんなにペースを落とすんだ? 後ろからライバルが来ている。1分45秒3に上げろ」
だが、ハミルトンは「レースをリードしているのは僕だ。僕たちに自由にレースをやらせてくれ」と反論し、チームからの指示を無視し続けた。そのため、通常ドライバーと無線で交信している担当のレースエンジニア(ハミルトンの場合はピーター・ボニントン)に代わって、チームの技術部門トップであるパディ・ロウが割り込み、「ペースが遅すぎる。もっとペースを上げろ。これは命令だ」と厳しい口調で指示を送ったのである。
それでもハミルトンはこう言って、チームの命令に異を唱えた。「このままじゃタイトルが取れない。タイトルが取れないんだったら、勝ち負けはどうなっても構わない」
'13年にはレッドブルのベッテルが無線を無視。
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実は、長いF1の歴史の中では、チームの指示に従わなかったドライバーはハミルトン以外にも数多くいる。
最近では、2013年のマレーシアGPで起きた『マルチ21』事件がそうだ。最後のピットストップを終えて1-2体制を築いたレッドブルは、ライバル勢の追撃に備えてタイヤをいたわるため、そのままの順位でフィニッシュするつもりであることをライバルチームに悟られないよう、『マルチ21』と呼ばれる暗号を無線で送った。
しかし、2番手を走行していたセバスチャン・ベッテルがこれを無視して、トップのチームメート、マーク・ウェバーをオーバーテイクし優勝。4連覇へ向けて貴重なシーズン初勝利を飾った。