炎の一筆入魂BACK NUMBER
広島“キクマル世代”の隠れスター。
安部友裕「人生、一度きり」の逆襲。
posted2016/05/12 10:40
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
「松坂世代」や「ハンカチ世代」など、プロ野球界を彩ってきた世代がある。
同世代とは特別な存在で、活躍が励みになるとともに、競争心を駆り立てられる。一般社会でも言えることだろう。好スタートを切った今季の広島にも、同世代による好循環が見られる。
一部スポーツ紙で「赤い平成JUMP」と名付けられた、1番田中広輔、2番菊池涼介、3番丸佳浩の上位打線が好調広島打線をけん引している。田中が高い出塁率を残し、菊池はつなぎ役だけでなく、得点源にもなる打撃を発揮。3番の丸は新打撃フォームで相手球団の脅威となっている。それぞれの活躍が相手バッテリーの警戒心を分散させ、個々の刺激となっているのは間違いない。
また、投手では野村祐輔がチームの勝ち頭となり、離脱者が多い先発陣の頼れる柱に成長した。さらに手薄な中継ぎ陣の中で、同じ'89年生まれの助っ人、ブレイディン・ヘーゲンズが「7回の男」として存在感を発揮している。投打に「キクマル世代」の活躍が目覚ましい。
東出コーチが今季のキーマンに指名した男。
彼らの活躍の裏に、忘れてはいけない選手がいる。それはルナが抜けた三塁で先発出場の機会が増やしている安部友裕だ。
「今季のキーマンは安部だと思っている」
開幕前、東出打撃コーチはそう言った。チーム力の底上げに、安部の成長は欠かせないと感じていたようだ。
昨季、広島は優勝候補と期待されながら、優勝どころかクライマックスシリーズ進出も逃した。中軸と期待された菊池と丸の大不振が大きく響いたことが大きかった。だが、2人の責任だけではない。まだレギュラーに定着して2、3年の2人に、それだけの重荷を背負わさなければいけないチーム事情が問題だった。
遊撃のレギュラーに定着した田中も、まだ絶対的な存在ではない。昨季と同じ状態に陥ったとき、チームは立て直す道をなくしてしまう。レギュラー選手と控え選手の力の差を埋めることが、チームをより成長させる。首脳陣は主軸と期待する選手を脅かす存在の台頭こそ、チーム力の底上げとなると考えていた。その筆頭が安部だった。