モータースポーツ解体新書BACK NUMBER

誤解だらけのドライビングテクニック。
凄く速く走るコツは「丁寧さ」!? 

text by

大串信

大串信Makoto Ogushi

PROFILE

photograph byTOYOTA

posted2015/11/05 10:55

誤解だらけのドライビングテクニック。凄く速く走るコツは「丁寧さ」!?<Number Web> photograph by TOYOTA

F1と同じく世界自動車連盟(FIA)が管轄する“モータースポーツの甲子園”FIA-F4は、日本国内では全14戦で競われる。

左、もしくは右に曲がる時にどんな運転をする?

 ここまではブレーキングからコーナリング、つまり縦方向のグリップから横方向のグリップへの遷移を説明したが、同じ横方向のグリップでも左右の遷移があり、当然レーシングドライバーはそれを意識している。

 たとえば右、左と続くS字コーナーにさしかかったとしよう。

 ドライバーがステアリングを右に切ると遠心力がかかって車体は左に傾き左側のタイヤに荷重がかかる。荷重がかかると左側のタイヤが発揮する横方向のグリップは増加するから、ドライバーはそれを確かめてから右コーナーへ飛び込む。ポイントは、遠心力を使って、左側のタイヤに荷重をかけることだ。単に乱暴にステアリングを大きく右に切って無造作にコーナーへ進入したとすると、十分荷重がかかっていない左タイヤの横方向のグリップは増えず、容易に限界を超えて滑り出し、思いどおりのラインをトレースして走ることができなくなる。

 続いて次の左コーナーへ向けてステアリングを切り返した場合、左に傾いていた車体は初期のステアリング操作によって右へ傾いて、右側のタイヤに荷重がかかっていく。レーシングドライバーは左にかかっていた荷重を右へ移すためにステアリングを切り始め、十分に荷重が右へ移った段階で本格的にステアリングを切り込んで、最もグリップ限界が要求されるコーナリングに入っていく。

 この荷重の移動を感じ取らないまま急にステアリングを切り返しても、荷重が左に残ったままなので右側のタイヤは十分にグリップ性能を発揮せず、クルマの方向がなかなか変わらないのは右コーナーで見たとおりだ。最初に言った、レーシングドライバーの「丁寧で緻密な運転」という意味が分かってもらえただろうか。

 レーシングドライバーは今自分(の乗ったマシン)がどんな状況にあるかを理論的に感じ取り、それに合わせた操作をすることによって機械である自動車から最大限の性能を引き出す。

 言い換えれば限界がどこにあるかを常に探りながらきわめて優しく丁寧に走っている。

 だからこそ速く走れるのである。

【次ページ】 「レーシングドライバーの運転ではクルマ酔いしない」

BACK 1 2 3 4 5 NEXT

モータースポーツの前後の記事

ページトップ