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黒沢ヒュッテを守って55年。
藝大山岳部は藝大「山小屋」部!?
posted2015/09/03 10:30
text by
君塚麗子Reiko Kimizuka
photograph by
Asami Enomoto
見た目の美しさだけではない深い魅力がここには詰まっている。
好評発売中の雑誌Number Do 『わたしのホーム・マウンテン』より、
学生の手によって守られてきたその姿の一端をご紹介します。
鹿島槍ヶ岳の麓、長野県黒沢高原に建つ黒沢ヒュッテは1960年、東京藝術大学山岳部の山小屋として建築学者の山本学治氏が設計し建築された。当時山本氏は同大学で教鞭をとっており山岳部長も務めていたという。今年で築55年を迎えるこの山小屋は、建設当時から現在に至るまで、ずっと大切に藝大生たちによって守り続けられている。
「私は山岳部の副部長なんですけど、実はまだ山に登ったことはないんです。登ってみたいなとは思いますけど……。それよりも山小屋で過ごす時間が楽しくて。みんなでごはんを作ったり、コーヒー淹れたり、バーベキューしたり。小屋で仲間と過ごす時間が好きなんです」(工芸科2年・小田原唯さん)
山に登ったことがない山岳部の副部長? と普通は驚くだろう。しかしそれこそが、藝大山岳部なのだ。もちろん山登りが好きで入部する学生も存在するが、圧倒的に「山小屋(黒沢ヒュッテ)が好きで山岳部に入った」という部員が多い。
山に登らなくても、山小屋で生活して山のことを知る。
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「ここは時間がゆっくり流れている感じがするんです。“ひま”というのとは違って、ただのんびりするとか、星を眺めるとか、そういう時間を楽しめるんです」(元副部長・工芸科大学院1年・小林恵実子さん)
「山菜を採ったり、釣りをしたり。小屋に来ると、自分たちで考えて自由に遊ぶ、ということができるのが魅力です」(元会計・工芸科大学院1年・久保万理子さん)
山に登らなくても、山小屋で生活して山のことを知る。そんな風に部活動を楽しめるのが藝大山岳部というわけだ。しかし、のんびりするだけが部活動というわけではない。
「僕のいちばんのここでの思い出は水道の工事かな(笑)。冬に水が凍結してしまったので新しいホースを買って繋ぎ直そうっていうことになったんです。雪が2~3mも積もっているなか、山の下から新しいホースを担いで山小屋まで上がり、さらに、山小屋から川の上流まで300m以上のホースをみんなで繋ぐ作業をしました。想像を絶するものすごい経験でした」(元部長・工芸科大学院1年・大曲景吾さん)