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アジア出身初の9秒台スプリンター。
世界陸上で新たな歴史を刻む蘇炳添。
posted2015/08/21 10:10
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
近年、中国の男子短距離は著しい進化を遂げてきた。
2013年にモスクワで行なわれた世界選手権の100mでは、2名が準決勝に進出。昨年のアジア大会では、4×100mリレーで日本が保持していたアジア記録を塗り替えて金メダルを獲得している。個々のタイムも急速な向上が目につく。
中でも目覚しい活躍を見せるのが、蘇炳添(スー・ビンチャン)である。彼こそが、「躍進、中国」を象徴する選手と言ってよいかもしれない。
北京で行なわれる世界選手権の大会終盤、8月29日に26歳を迎える蘇は、2009年、2010年あたりから、国際大会に出場してきた。
2010年のアジア大会では、4×100mリレーのメンバーとして金メダルを獲得。その翌年にはアジア選手権の100mで優勝したほか、他の大会で中国記録の13年ぶり更新となる10秒16の新記録(当時)を出し、一躍スターダムに駆け上がった。
2012年のロンドン五輪、2013年の世界選手権にも出場し、ともに100mで準決勝進出。2014年の世界室内陸上男子60mでは、中国人初の決勝進出を果たした。
アジア出身選手として初めての9秒台。
中国を代表する一人となった蘇が、中国国内を越えてアジア、そして世界の注目を浴びる存在になったのは、今年5月にアメリカ・ユージーンで行なわれたダイヤモンドリーグのプレフォンテーン・クラシックだった。タイソン・ゲイ(アメリカ)が優勝したこの試合で、蘇はなんと3位に入る。タイムは、9秒99。
それは記念すべき記録だった。アジアの選手として史上3人目となる9秒台であり、アジア出身選手(他の地域から国籍を変更していない選手)としては、史上初の9秒台であったのだ。日本勢が長年追い求めてきた10秒の壁を、ひと足先に破られた瞬間でもあった。
「歴史に名を刻むことができ誇りに思う」
大会後のコメントである。
蘇は身長が173cmと、短距離の選手の中では小柄な部類に入る。決して体格に恵まれているわけではない。
それでもこれだけのタイムをたたき出すことができた秘訣は、優れたスタートからの加速力にある。一方で後半の走りを苦手としていたが、その課題がようやくクリアされたレースで、好記録をついに残した。