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マラソン日本記録にボーナス1億円!?
空前絶後の高額賞金の裏側に迫る。
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph byAFLO SPORT
posted2015/04/09 11:00
現在の日本記録は、男子は2002年のシカゴマラソンで高岡寿成が出した2時間6分16秒、女子は2005年のベルリンマラソンで野口みずきが出した2時間19分12秒。
マラソン界では、1億円の賞金は破格の数字。
日本で唯一高額賞金が公になっている「東京マラソン」の優勝賞金は800万円。大会記録を更新すればさらに300万円のボーナスが加算される。
ちなみに、日本記録ボーナスは500万円で、世界記録ボーナスは3000万円となる。つまり、世界記録で優勝すると3800万円という高額賞金になるが、1億円には遠く及ばない。(もちろん、もし来年の東京マラソンで日本人選手が日本記録で優勝したら大会からの1300万円と1億円を手にすることができるが……)
さらに、マラソンで世界最高水準の賞金が提示されているドバイマラソンの優勝賞金が25万ドル(今のレートで3000万円弱)なので、これも1億円には及ばない。
つまり、世界中のマラソンを目指すランナーにとって、これ以上ない最高額となる。
もちろん、他の人気プロスポーツには敵わない。
たとえばプロ野球選手ではメジャーリーグから横浜ベイスターズに復帰した佐々木主浩が2004年~2005年にかけて年俸6億5000万円だったという記録がある。また、サッカーJリーガーの場合、年俸1億円を超えるプレイヤーは年間10名ほど存在する。
しかし、陸上競技の実業団所属であるマラソン選手の身分は若い年齢の会社員なので、年俸は現実300~1000万円くらいが限界である。
大胆な“人参作戦”としてのインパクトは十分にあると思う。
税金は? アフリカ勢の国籍変更は? そもそも原資は?
一方で、問題点は少なくない。
たとえば、サラリーマンである実業団選手(もちろん、学生でも公務員でも日本記録をだせばもらえる)が宝くじでもない1億円をもらったら、それにかかる巨額の税金はいったいどうするのだ? とか。
あるいは、ケニアの有力選手が偽装結婚で大量に国籍変更し、日本人がオリンピックに出場できなくなるかもしれない、とか。
そもそも、1億5000万円の原資はどうやって集めるの? 実業団の資金が枯渇するのでは? などの疑問や問題はたくさんある。
それらは、おいおい解決するとして、ひとまず原点に立ち還ってもいい。
スポーツには夢がある。
応援するファンは選手たちの努力と活躍に勇気付けられる。時には、自分自身の人生と夢を重ね合わせ、人生の糧にすることもある。
応援される選手たちは、青春のすべてを捧げてきた競技での成功を夢見る。そして、成功すれば富と名誉の両方を手に入れることができる。
1億円という金額は、一攫千金という下世話な話で片付けるのではなく、マラソンという夢がより大きくなったと考えてみることにしよう。